抱えきれないほどの花束をあげよう!
直弥の様子に敦美は事情をすぐに把握できなかった。


「その娘さんって結婚するのに何か問題がある人なの?」


「べつに、ない・・・。ないからどうしようもないんだ。
それでさ、敦美、アメリカの高校へ転校してくれないか。」


「どうしてそんな話になるの?」


「だから、俺のそばにいてほしいから。」


「だって、直弥兄様は結婚するんでしょう?
私は住むところだって、困ってしまうし・・・今の高校は卒業したいし。」


「俺といっしょに住むんだ。
俺のところにきてほしい。」


「ちょ、ちょっと待って・・・そんなの変よ。
新婚家庭におじゃまなんてできないって。」


「じゃまなんかじゃない!
俺は敦美以外の女は妻にする気なんかない。
会社が軌道にのったら、離婚するつもりだし。」


「な、何言って・・・それって・・・私は、私は愛人みたいじゃない。」


「仕方ないだろ。今は助けてもらうしかないんだから。
けど、俺は・・・相手を愛せない。
俺は・・・おまえしか。

来てくれなければ、今の授業料は払えないし、何もかも引き上げるから。」


「そんなの横暴よ!だったら私、自分で働くもん。
働いて、高校卒業する。
ママだって少しならお金貸してくれると思うし、何とかして高校卒業するから!」


「だめだ!俺がまともに働こうと思ったら、敦美にそばにいてもらわないと、稼げない・・・。」


「そんなのおかしいよ。
それに相手の女性に失礼だわ。
本気になれないのなら、そう言わなきゃ。

それで会社がつぶれてしまっても・・・。」


「つぶしたら、家族みんな生きていけないぞ。俺たちだけじゃなく、社員みんなが路頭に迷う。
だから、いっしょに帰るんだ。
こっちでの手続きなんかはお義母さんにしてもらえばいい。」


「そんな・・・私は・・・せっかく寮生活にも慣れて、来年には進路だって決まるのに。」


「だから、今、アメリカに引っ越せば進路を考えるのに間に合うじゃないか。
俺も力になれるだろう?」


「愛人の力になってどうするの?
奥様がかわいそうだわ。
私は嫌。どうしてもアメリカに引っ越せというのなら、私はひとり暮らしします。

だけど、知らないところでひとりは嫌。
今の学校でいいの。だから、私は行かないわ。」


「だからそれは無理だ。
学校も寮も続けられない。」


「わ、私帰るわ!そんな話きけない。
ごめんなさい・・・。」


席から立ちあがって部屋を出ようとしたときだった。

直弥に腕をつかまれて敦美は部屋の出口の前でつまずいてしまった。


「あっ・・・」


「敦美!」


直弥が敦美を抱えたまま床に座り込むと、直弥は敦美の唇をはげしく奪っていた。


「うぐぅ・・・はぁ・・あ・・・」


直弥の唇が敦美の首筋を伝い、直弥が敦美のブラウスのボタンをはずして胸元にキスをしようとしたときだった。

敦美は思いっきり直弥の頬をひっぱたいて、その隙に部屋の外へと出ていった。

エレベーターを降りて、1階に出て外に出ると、そこには七橋の姿があった。


「助けて・・・先生!」


「高瀬・・・えっ!?どうした。とにかく、来い。」
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