抱えきれないほどの花束をあげよう!
翌朝、冬弥が享祐の携帯に電話をかけてきて、直弥がひとりでアメリカへ行くことを伝えてきた。


「どういうことなの、冬弥兄様!」


「会社のピンチは自分で何とかするってことさ。
敦美ちゃんを愛人になんてしないって。

政略結婚も何とか切り抜けられないかがんばるらしいよ。」


「できるの?そんなこと・・・。
やっぱり私、アメリカについていった方がいいんじゃないかって。」


「敦美が兄さんの会社の心配までしなくていいよ。
高校生活を楽しまなきゃだめだ。
学費は心配いらないぞ。
俺が、これからめんどうみてやるからな。

売れっ子イラストレーターの兄に任せておけ。なっ!」


「じゃあ私はどこに住めば・・・?」


「今までどおりでいい。
それに、ずっとそこに享祐といるのは教育上よくないことだからな。」


「冬弥兄様・・・。ありがと。」


「わかったら、寮へもどって学生らしく生活しろ。女子高生!」


「はいっ!あ、でも先生にお礼しなきゃ。」


「心配ない、俺がしておくから。
敦美ちゃんは今やらなきゃいけないことをがんばれ。
いいな、それが兄ちゃんが生活費を出してやる条件だ。」


「はい。じゃ、私すぐに寮にもどります。
あ・・・ところで直弥兄様は?」


「もう行ったよ。
敦美に会ったら連れていきたくなるからって、そそくさとね。
気になるかい?」


「ううん、いいの。
また電話するわ。」


「そっか。それでさぁ・・・まさかとは思うけど、七橋享祐は敦美ちゃんに何かしなかったかい?」


「何かって?」


「いや、べつにいいんだ。
じゃ、寮へもどって学校へ行くんだぞ。
じゃあな。」


冬弥は敦美に言いたいことだけいうと電話をきってしまった。


享祐はあっけにとられた顔をしていたが、すぐにいつもの先生の顔になって敦美を寮まで送っていった。


「私、朝帰りしたことになっちゃうんでしょうか?」


「それはないよ。昨日、君はお兄さんといっしょにいたということになってるから。
さ、用意をして登校してきなさい。」


「はい、ありがとうございました。」


「あ、こ、これ・・・昨日誤解されちゃったから、丸みの意味はこれで・・・さ。
ごめん。俺は不器用でうまく言えないから。
じゃ、学校でな。」


敦美は享祐に渡された、紙を広げてみた。


「これ・・・私。」


鉛筆で描かれたデッサンのコピーだった。

享祐のシャツ1枚だけを身に着けた敦美が、初々しくもなまめかしく見える。

それなのに、いやらしいイメージよりも、健康美と躍動感が伝わってくる。


「先生にはこんなふうに見えてたんだ・・・。
私、怒ってしまったけど、今、これ見たらとてもうれしくなる。
すごいなぁ。先生・・・」
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