抱えきれないほどの花束をあげよう!
とりあえず、敦美は甘味処の店の方を取り仕切っている井谷珠代という40代の女性に教育係としてついてもらうことになった。


「井谷です。ここではおたまさんって呼ばれてるわ、よろしくね。
で、私と同期のここでの職人の広田孝子さん。
それと職人見習い中の彼は中岡歩くん。その他バイトちゃんね。」



「ひどぉ~いおたまさん!私たちバイトちゃんでひとくくりなわけ?」


「あんたたちはまだ、着物だってまともに着れないレベルでしょうが!
敦美ちゃんは着物は自分で着られるのよ。
あっという間にこの店の看板娘になると思うわ。」


「あ、あの。おたまさん、それは買い被りというものです。
私はここでは新米なんですから・・・あの。」


「あんたたち!、敦美ちゃんをいじめないでよ。
イジメが発覚したらあんたたち即刻クビだから。」


「はぁーい・・・こわ~い。」


思ったより、速いテンポで敦美は研修に入った。

そしてその頃、享祐は叔母の苑加と居間で話をしていた。



「あの、私は高瀬を看板娘にするためにここを紹介したのではありません!」


「じゃ、どういうわけで、ここに寄り付くのも嫌なあんたがあの子とここへ来たんだい?」


「それは・・・。高瀬が水商売のバイトをしたいというので・・・変な店にでも行ってしまったら、親御さんに顔向けできないし。」


「バイト禁止の高校で教師をやってるくせに、彼女にバイトをさせる意味は何だろうね。
まぁ、きれいで気立てもよく、訳ありの娘にひかれる気持ちはよくわかったけどね。」


「なっ・・・そういうわけじゃ。」


「まぁ、あんたが前に進めるようになるのであれば、あの娘は引き受けてあげるよ。
うちのバカ息子みたいになってほしくはないからね。
この店をここで開いたときは、何とかお金を貸してもらえたからよかったものの、かなりあの女に持っていかれてしまったからねぇ。

あんたが愛した女の正体がよくわかったときには、犠牲が大きすぎたからねぇ。
でも、そのうっとおしい風貌と女から逃げてばかりいた生活は、あの娘のおかげでかなり改善されたみたいだねぇ。」


「改善はされたと思います・・・が彼女は教え子であり、合宿費を兄にねだれない事情があります。
ですから、ここに連れてきたんです。」


「合宿って何部なんだい?」


「美術部です・・・。」


「いっしょに合宿したいと思ってるんだね。」


「そ、そりゃ、仲間が欠けるのは困るし。」


「ふふふ・・・あははは。あいかわらず、かわいいねぇ。
まぁ以前よりはずっと、目はよくなったみたいだね。
あの娘はいい娘だよ。
私にはわかる。

いい娘過ぎて、職人の歩くんや常連のお客さんに口説かれなければいいんだけどねぇ。」


「そ、そんな・・・口説くなんてそんなダメですよ。」


「じゃ、あんたもここに居なさい。
学校だってここからだったら2駅遠くなるだけじゃないの。
敦美ちゃんがバイトしてる間、あんただって夏休みで学校ばかりじゃないでしょう?」


「それはそうだけど・・・。」


「じゃ、決まり!着替えとか持ってやってきなさい。
それと、ここにいる間はそのうっとおしい頭を何とかしなさいよ。
芸術家だから、切れとはいわないけど・・・すっきりとね。」


「わかったよ。」
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