抱えきれないほどの花束をあげよう!
結局、敦美が甘味処七橋でアルバイトをしている間、享祐も住み込むことになったのだった。


「えぇ!先生も、叔母さまのところに住むんですか?」


「ああ、それが約束だそうだ。
俺は、仕事があるから、ほとんどいないけどな。」


「いいじゃないですか。叔母様きっとおさびしいんですよ。
先生にとってもいい夏休みになればいいですね。」


「いや、俺にとっては前に進むための試練だから。」


「試練?」


「ああ、高瀬もすぐに耳にするだろうから話しておくよ。
俺は高校も大学も海外で飛び級で卒業して、ここに来た。

俺の母は妻子ある男性の子どもの俺を産んで亡くなった。
学校を出るまで施設で育って、それから母の妹である叔母さんが俺を引き取ってくれたんだが。
その当時、ここで働いていた女性を俺は好きになって告白したんだ。

付き合っていたと思い込んでいたのは俺ばかりで、彼女はじつは叔母さんのひとり息子と結婚してしまった。
俺はショックでここを飛び出して、武者修行の旅じゃないけど・・・絵を描きながら一人旅してた。

その後、ここで彼女は幸せになったんだとばかり思っていたんだけど、彼女の目的は彼の資産だった。
叔母さんと折り合いが悪くて若夫婦は飛び出していったらしいが、そこで彼女はべつの金持ちの男に乗り換えた。

女狐にだまされ、すっからかんになった息子は精神的病が原因で・・・自殺した。
お金もほとんどなくなって叔母さんだって大変だったんだ。」


「でも、先生のことだからお金を送ったりして叔母さんを助けたんでしょう?」


「どうしてそれを?」


「ちょっときいちゃった。」


「もう店しかない叔母さんを元気にするためには、この店がないとな。」


「いいことしたね。先生!」


「高瀬・・・もとはといえば俺のせいでもあるし。」


「私はそんなことないと思うよ。だって先生が最初に振られて悲しい思いをしたんだから。
だけど、そんなに美人だった?
息子さんにとられちゃってショックだったんでしょう?

当時の先生なら、ほとんどの女性は断るわけはないよね・・・そう予想したら、先生のプライドが傷ついちゃったんでしょ。かわいそうに。」


「おぃ・・・勝手に話を想像で作るな!
どこでそんな話を仕入れてきたんだか・・・。
まぁ、ちょっとだけ当たってるけど。」


「もう過去のことだし、きっとひどいことした人はひどい結末を迎えてるに違いないって。
私もがんばるから、先生も叔母さんに素敵な笑顔を見せてあげればいいと思うよ。

あ、そうそう、叔母さんの絵なんて描いてあげればいいんじゃないかなぁ。」


「絵か・・・そうだな。
高瀬、たまにはいいこと言うな。」


「たまには余計ですっ!」


「じゃ、夏休みはお互いがんばろうな。」


「はいっ!お店の人みんないい人ばかりですし、私、がんばります!」
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