抱えきれないほどの花束をあげよう!
敦美は夏休み初日から、真面目にお店で一生懸命働いた。

ものの3日ほどで、敦美目当ての若い男性客まで増えたくらいだった。


「すごいわねぇ。若くて美人であの動きなんだから、みんな負けられないわよ!」


「ウッス!」


「まぁ、歩くんも最近はりきってるみたいね。」


「お客さんが多くなると、孝子先輩も作るのが忙しいし、僕もいろんな仕事をさせてもらえるんです。
僕の作ったおしるこがどんどん注文されると、なんか・・・うれしくって。」


「そう。じゃ、どんどん敦美ちゃんにがんばって注文とってもらわないとね!」


そして、夜になって享祐が仕事からもどってくると、享祐は目をぱちくりして慌ててレジに入った。



「おい、こりゃ、どういうわけだ?
店の客が・・・いや、外に列ができてたぞ。」


「敦美ちゃんのおかげだよ。
彼女が元気にお店に出てくれてると、お客さんが増えちゃってさ。
クチコミみたいで、なんか増えちゃって。」


「まずいな・・・あまり派手なことされると、いちおう許可は出してはいるが、うちの学校は原則バイト禁止だからちょっとなぁ。
しかも、俺は風紀担当の教師だし・・・。クビになったらどうしよう。」


「そ、そんなこと言ったってねぇ・・・。
着物きてるんだし、遠目だったらわかんないんじゃない?」


「おたまさん、それ、楽観的すぎませんか?」


「だってしょうがないじゃない。看板娘なんだもん!
そうだ、だったらアルバイトじゃなくてボランティアってことにすればいいんじゃない?」


「えっ?」


「だから、バイトの娘じゃなくて、お手伝いしてもらってるって表向きしておけばいいのよ。
やめるときに、お礼としてバイト料を渡しても、彼女には困らないと思うんだけど。
こちらの帳簿のお話だもの。」


「そっかぁ。さすがおたまさん。
でも、この人気は何ですかねぇ・・・。なんか握手まで求めてるのがいるし。」



そうこう享祐が話すうちに、ある客が敦美の腕を強く引っ張って自分の膝の上に座らせるという行為をした。

敦美の叫び声に近くにいた男性客たちも、敦美のピンチに集まってきた。


享祐が問題を起こした客に近づこうとするより先に、珠代は客に申し出た。


「お客様、うちは甘いものを召し上がっていただくところですが、甘いサービスは仕事に入っておりません。
敦美のファンになっていただくのはありがたいのですが、他のお客様のご迷惑になる行為をなさるのであれば、こちらとしても警察に連絡したり、敦美を解雇しなければならなくなりますが・・・。」


「敦美ちゃんをやめさせるっつーのかぁ?」


「いたし方ありませんね。お店に損害をかけてしまう従業員は雇っていられません!」


「そりゃ、いけないよ。ごめんなさい・・・。
敦美ちゃん、ごめんよぉ。俺、敦美ちゃんに触れたかったんだ。
俺を嫌わないでくれ!」


「お客様が店のルールに従ってきてくださったら、嫌わないです。」


「わかった・・・。もう乱暴なことはしないよ。
敦美ちゃんのファンって多いから、俺みんなに殴られるところだったんだなぁ。」
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