抱えきれないほどの花束をあげよう!
とりあえず、その場は落ち着いたものの、敦美の手は震えていた。

珠代はいったん敦美を奥に引かせて休ませた。


「はい、敦美ちゃん。
昆布茶と、饅頭だ。
まずは落ち着いて、気分を変えよう。」


「ありがと、歩さん。
うう・・・おいしい!
あれ、さっき先生がいたような・・・」


「ああ、享祐さんならレジのとこに。
もうすぐ閉店だから、それまでいてくれるんじゃないかなぁ。」


「私、変わって・・・こなきゃ。」


「いいから、ここに座っていなさい!」


新米菓子職人の中岡歩は敦美の肩をつかんで調理場の椅子に座らせた。


「あの・・・。」


「がんばりすぎは長続きしないから。
僕も、孝子先輩にそういわれたから。
細く、長くだよ。」


「そうですね。すみません、歩さん。」


「お饅頭もう1つどう?
僕の作ったやつだけど。」


「いいんですか?うれしいぃ!私、じつはお腹ペコペコだったんです。」


「じゃ、3つあげよう!」


「わぁ、うれしい!でも・・・売りものなんじゃ?」


「いや、饅頭は僕のはお客様に出せないよ。
今日の練習でちょっとね。
だから、捨てるか僕が食べるかなんだ。」


「私が食べちゃってもいいんですか?」


「いいよ。味は孝子先輩の作ったあんこがびっしりだからおいしいよ。
形はあまりよくないけど。」


「あ、本当だ。ん~~~おいしぃ!
こんなにおいしいんだもん!
歩さんだってそのうち・・・ですよ。」


「そっか?敦美ちゃんに言われると、確かにとてもうれしくなるよ。
で・・・よかったらこの後、何か食べにいかないか?」


「えっ、でも私お金ないし。
夕飯は寮に帰って食べないといけないので。すみません。」


「じゃあ、日曜は?今度の日曜どこか行かない?
僕が全部おごってあげるよ。」


「あ、でも・・・。」


「日曜の食事は俺が引き受けてる!
悪いけど、高瀬はここでバイトするかわりに風紀面は俺が監視している。

男と繁華街に出るなんて、誰の目があるかもしれないので、悪いな。」


歩との会話の間に享祐が割って入ってきてそういった。
歩は気まずそうに、頭をペコっとさげると調理場の奥へと移動していった。


「あの、先生・・・日曜は先生と私で食事するんですか?」


「そのつもりだが。何か都合が悪いのか?」


「いいえ、それより、そんな話はきいてなかったので、驚いちゃって。」


「俺も驚いてる。
こんなこと言って高瀬を誘ってる自分と、店での高瀬の人気ぶりにな。
今だってなんだ・・・その・・・歩と高瀬が近くで楽しそうに話してるのは風紀上よくない事なんだからな!」


「すみません。」


「あ、気にするな。高瀬があまりに素直すぎても、俺は調子が狂う。
ナマイキな高瀬でいればいい。」


「そ、そんなこと!もう、知らない!私、もう帰りますから。」


「俺が送るから車に乗って行け。」
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