抱えきれないほどの花束をあげよう!
敦美を女子寮に送ってから、享祐は車を置くために甘味処七橋にもどった。

以前暮らしていた部屋にもどると、叔母の苑加が笑顔で座っていた。


「叔母さん・・・どうしたんですか?」


「従業員からいろいろきいたんでね。
自分の目で確かめにきたのさ。」


「な、何をだよ・・・。」


「あんた敦美ちゃんに惚れてるんだろ?」


「ば、バカ言うなよ。高瀬は私の生徒で、どうしても働かなくてはならないっていうから、ここを紹介しただけだ。」


「ここにはもう来ないのかと思ってたくらい、ここを嫌ってたあんたがねぇ。
しかも、私の交換条件を素直にきいてくれてるしねぇ。
これはおてんと様がひっくり返るんじゃないかと私は思ってるんだけどねぇ。」


「私は仕事で来ただけなんだから、終われば家にもどるし、用があれば家にもどる。
ただ、それだけだ。」


「うん、かまわないよ。それで。
あんたが幸せになれるんだったら、何でもかまわないんだ・・・私はね。

敦美ちゃん・・・きれいだし、礼儀正しいし、お客様も増えて、あの口数の少ない歩までが店で楽しそうに笑って仕事をしてるのには驚いたねぇ。

あの娘を連れてきてくれたことには、お礼をいわなきゃねぇ。
だけど、私は、もっともっと驚いたことがあるの。

享祐が両目を出してあの娘としゃべってたとこよ。」



「そ、それは・・・ちょっと見られてしまったんで。」


「違うね。私なんてずっとあんたの目を何年も見てない気がするんだけど、敦美ちゃんと話をする享祐は自分で髪をあげて敦美ちゃんをじっと見てた。

以前、あの女を眺めた以上に優しい目でね。」


「それは・・・。叔母さん・・・頼みがある。
そんなことは絶対、高瀬には言わないでくれないか。
俺は担任で、風紀担当の教師で・・・。」


「そうねぇ。でも敦美ちゃんが卒業しちゃったら、関係ないんじゃないの?」


「そうだけど。」


「敦美ちゃんが卒業するまではつらいわね。
ま、叔母さんに任しといてくれれば、うまくここで働いてもらうわよ。」


「ぬぁに・・・!ちょ。ちょっと、待った・・・叔母さんそんなのは。」


「邪魔はしないから安心しなさい。
ねぇ、敦美ちゃんは今、付き合ってる人とかいないの?
あの娘はけっこうモテるんじゃない?」


「学校では異性にはぜんぜん興味がないみたいな生活してるし、男どもも相手にされないと思ってる。
だけど・・・」


「ん?だけど、何なの?気になることでも?」


「彼女のお母さんが再婚して彼女には血のつながらない兄が2人できたんだけど、長男の兄は最近彼女に愛人になって自分とアメリカに行ってほしいと頼んでた。」


「何ですってぇ!どうして愛人なの?」


「会社経営がうまくいってないらしくて、政略結婚をすすめられたらしくてね・・・会社は結婚して救えるが自分の気持ちは彼女じゃないと救えないとかって。」


「何それ?彼女断ったんでしょうね。だめよ、そんなの。
敦美ちゃんはまだ若いんだもの・・・もっと幸せになれる人でないと。

そんな男の愛人になるくらいなら、あんたすぐに夫の立候補してあげなさい!」


「ちょ、ちょっと待って叔母さん。よわったな。」
< 38 / 93 >

この作品をシェア

pagetop