抱えきれないほどの花束をあげよう!
1週間と2日、敦美は享祐のことを考えない日はなかったが、部屋にこもっているとあっという間に夏休みが終わってしまった気がした。

休みが終わったら、始業式からまた顔を合わせることになる。

それでも、すぐに園芸部に入部願いを出せば享祐に会う機会はずっと減る。
その方がいいんだと自分に言い聞かせるように敦美は決心していた。

パソコンをあまり触らなかったせいか、ラッキーともチャットすることはなく、2学期が始まった。



「夏休みが終わってまた元気にみんなに会えたのは、本当によかったと思う。
2年の2学期は高校生活のいちばん思い出深いときになるだろう。
それにこれから3年の進路指導の最初だとも思ってもらわなきゃならなくなる。

大学や専門学校に進学する者、企業に就職を考える者少しずつでかまわないから、未来図を考えておいてほしい。」


享祐がそんな話をしていると、敦美はずっと下を向いたままだった。


「高瀬、どうした?気分でも悪いのか?」


享祐からいきなり声をかけられて、敦美は真っ赤な顔になって顔をあげかけたがまた慌てて下を向いた。


(高瀬・・・いくらなんでも、俺を見てそこまで赤い顔しなくても・・・。
ふふっ、ほんとにかわいいヤツだな。)

「高瀬、熱でもあるのか?保健室へ行ってもいいぞ。」


「いえ、大丈夫です。」


敦美はうつむいたまま返事をした。

(どうして、私に話しかけてくるのよ・・・。もう、ほっといてくれればいいのに。)


始業式はその程度で、敦美はすぐに寮へと帰ることができた。

しかし、翌日になって美術部の沢井副部長が敦美の教室までやってきた。


「高瀬、美術部をやめるって本当かい?」


「はい。すみません・・・。私やりたいことがあって。」


「園芸部に入るってこと?七橋先生からきいたんだ。」


「はい、先生からマネージャーの話を頼まれたときは、迷っていたんですけど、合宿費用も家庭の事情で出なくなりましたし、皆さんみたいに絵に対して情熱がないなってわかってしまったんです。
すみません。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」


「いや、ひとりでいろいろ悩んでいたんだね。
わかってあげられなくて、ごめん。
マネージャーのことはもう気にしなくていいよ。
後任の人は募集すれば誰かきてくれるし、高校生活は楽しめないとね。
お互い、部活は違うけど、会ったら手くらいは振ってくれよな。
じゃ、今までありがとうな。」


「沢井先輩、こちらこそありがとうございました。」

敦美はちょっとさびしい気もしたが、これでよかったんだと言い聞かせた。
これで、気分も一新して園芸部に入ることができる。
そう思って、放課後、園芸部の部室へと向かった。
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