抱えきれないほどの花束をあげよう!
園芸部の部室に行くと、仮入部の届けを書かされて、副部長へ出しに行って来いと言われた。
副部長の高元まどかは文化祭用の菊の世話に追われて中庭にいた。


「あ、あの高元先輩!入部の申し込みをしたくて届を持ってきたんですけど。」


「ああ、あなたが高瀬さんね。美術部からうちに来るって七橋先生からきいてるわ。」


「えっ、先生から?」


「届け確かに受け取ったわ。今日はよかったら温室の中でも見て行って。
明日は部室で部会をやるから、必ず来てね。」


「はい、わかりました。」


そして、小さな温室に入ってみると、かわいらしいサボテンが並んでいるのが見えた。

「きゃぁ・・・かわいい。
こんな、小さいのに花が咲いてるのはすごい。」


「サボテンってこうやって育てるのはけっこう手間がかかるんだ。
きれいな花を愛でることができるのは、ほんとに幸せな時間を過ごしたことになるな。」


「えっ!?どうして・・・先生がここに。」


温室の中で享祐がスケッチブック片手に座っていたことに敦美は驚いた。


「俺は園芸部のやつらにも知り合いが多くてな、よく生徒たちが育てた花を描かせてもらってるんだ。
そろそろ、高瀬が来るんじゃないかと思ってな。」


「わ、私を待ち伏せしたんですか?」


「いいや、来るかもなぁと思いながら、スケッチしてただけだ。
それに、前に比べて高瀬は露骨に俺を避けてくれてるみたいだから、新学期になっても話ができなかったしな。」


「私はべつに話すことなんて・・・ないですから。」


「俺はあるよ。あんなに真っ赤な顔されてうつむかれたら、気になってしまうだろう?
もしかしたら、高瀬は俺のことを気にしてくれているのかもしれないなぁって・・・。」


「そんなことはありません。私はもう美術部じゃないし、先生は担任だっていうだけで・・・し、失礼します。」


敦美が温室を出て行こうとすると、享祐は敦美の右手首をつかんで引き戻した。


「絵を好きになれとも、部を手伝ってくれとも言わない。
けど、俺はもっと敦美と話したい。
せめて、会えなくても電話でもいいから話ができないかな。」


「や、やめてください。もしこんなとこ誰かに見られたら、先生はクビになっちゃうんですよ。
先生は風紀担当でしょ。どうしてこんなことしちゃうんですか?」


「どうしてだろうね。きっと敦美に魅かれちゃってるんだと思う。
1年のときはわからなかった。きっとピカピカの1年生だったからだろうね。
それに、俺の目を見つけてしまった君が気になって・・・俺の本業なんて気にしないと思ってたんだけどね。

だが、君は俺の自己資産を気にいったのではなく、嫌がって逃げた。
余計に気になって仕方がない。
夏休み入ってすぐのときみたいに会えないかな。」


「そ、それは先生としてではなくってことですよね。
どうして、私なんですか?」


「野暮なことを聞くんだね。
人を好きになるのに理由なんていらないと思うけど・・・君はそうじゃな・・・すまない。
教え子にいうことじゃないね。
こんな俺を見て真っ赤になるほど、純情な娘を忘れるなんてできそうもない。」
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