抱えきれないほどの花束をあげよう!
そういわれた敦美は、胸がドキドキするわ、足はガタガタ震え、逃げることもできなくなっていた。


「ごめん、困らせたね。じゃ、俺は美術部に顔を出して来るよ。」

少し淋し気に温室を出ようとした享祐に敦美は勇気を出して声をあげた。


「私、この学校をみんなといっしょに卒業したいんです!
それだけは叶えさせてくれますか?
だったら、私・・・先生とお話したいです。」


「えっ!高瀬・・・本当に、いいのか?
やった。そっか、約束するよ、この学校を卒業させてやる。
これ、俺の携帯の番号とメールアドレスな。
あっ、俺の名前は女性の名前を付けといた方がいいぞ。
わかったな。」


「はい。」


「今夜だ!待ってる。」


「えぇ!・・・はい、今夜。」


「じゃあな、園芸部がんばれよ。」


「はいっ!」


なんか無茶な約束をしてしまったと思う反面、胸は高鳴り熱くなってしまう敦美だった。

その日の夜、寮で夕飯と入浴を済ませた敦美は、屋上に出て享祐に電話をかけてみた。


「もしもし・・・敦美?」


「あの、先生。私・・・」


「ちょっと待った!」


「えっ?」


「2人だけのときくらい先生はやめないか?
享祐って言ってごらん。」


「でも・・・あ、きょう・・すけ・・。」


「それでいい。あのさ、早速なんだけど、今度の日曜・・・アトリエまできてくれないか。
外にはあまり出れないかもしれないけど、2人だけで会いたくて。」


「はい。お昼の材料持っておじゃましますね。」


「うん、そうしてくれるとありがたい!ふふっ。
待ってるよ・・・敦美。あらためて名前を呼ぶとちょっとはずかしいな。
あまり話せないんだろう?ああっ、なんか俺すごくドキドキしてる。
あ、明日の朝の会で赤くなるんじゃないぞ。
俺、あせってしまうからな。」


「この間もそうだったんですか?」


「ああ、放っておくのも不自然だし、保健室に逃げてもらおうかと思って助け船出したつもりだったのに・・・君は何でもないってうつむいてるんだからなぁ。
どんなに冷や汗かいてたか、わかるか?」


「そうだったんですか・・・ふふっ。ハクション!」


「どこから電話してるんだ?」


「屋上です。ちょっと冷えてきちゃって。」


「バカ!風邪ひいてしまうだろ。
この続きは今度な。じゃ、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


電話をきって敦美はクスッと笑った。
そして小さな声で「キョウスケったら。」とつぶやいてみた。

部屋にもどると同室の佐上みづほが心配そうにしていたが、敦美は小さな声で彼氏ができたことをみづほにうちあけると、みづほはにっこりと笑って敦美に温かいココアを入れてくれたのだった。
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