抱えきれないほどの花束をあげよう!
そして、いつもとかわりのない学校生活がやってきた。

園芸部に入ってから敦美の毎日は安定していた。

とくに、もうすぐ花を開くだろう菊を育てるのは、敦美にとって充実した時間ともいえた。


「相田先輩、40周年式典に使う菊の鉢をすべて並べ終わりました。」


「よし、じゃ、小菊担当のグループを手伝ってきてくれ。」


「はい。」


相田律は園芸部の部長で、家が造園業をしていることもあって木のことについてはとくに詳しい。

試験中に学校の創立40周年式典もあるということで、園芸部は式典で使う大輪の菊の鉢や周りを彩る小菊の準備に忙しかった。

今日はセッティングをすべてすませてから、試験休みに入るという予定でがんばっていたのだ。


「はぁ・・・やっと終わりましたね。」


「高瀬さんも入って間もないのに、これだけの準備にびっくりしたでしょう。」

「はい、まさか園芸部でこれだけ体力勝負するなんて、考えてませんでした。」


「美術部みたいにあっさりやめないでくれよ。」


「あれは、最初から一時的にお手伝いということで入っていただけで、もともと私は園芸部を希望していたんです。」


「そうだったの?」


「ええ。担任の七橋先生からどうしても手伝ってほしいって言われて、それでとりあえず入ったんですけど、私には絵の才能はないものだから、ついていけなくて。」


「そうだったんだ。僕はてっきり七橋先生目当てで入ったのかなぁって思ってたから。」


「えっ?だってあのむさくるしい七橋先生ですよ。」


「あれ、知らないの。七橋先生って学生のときの写真だと目はややきつい感じだけど、けっこう美形なんだよ。
僕は、家が造園業でたまたま彼の個展パーティーに飾る花と木を父さんと届けたんだけど、あれだけ繊細な絵を描く人なだけあって、女性ファンがすごくてさ、姿が見えなくなるほどの女性に囲まれてたんだよ。」


「そ、そうなんですか?」


「まぁ、今の七橋先生を見て、普通の美術の先生だと思ってる人には信じられないことだろうけどね。
それに、当時聞いた話では彼は小さな国の王子だとも言われてたよ。
そういえば、何となく物腰が上品だよね。」


「へぇ・・・王子様なんてすごいですね。」


「先生はそういう話はぜんぜん興味がないみたいで、すぐはぐらかしちゃうんだけどね。
僕たち庶民は、教えてもらうことだけ学ばせてもらえばいいだけなんで関係ないけどさ。」


敦美は初めて聞く話に驚いていた。
2人でいるときにそんな話は出なかった。
そういえば、叔母さんの養子になった以前のことなどきいたことがない。

何を私に隠しているんだろう・・・敦美は不安を覚えた。
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