抱えきれないほどの花束をあげよう!
敦美は生意気に享祐を誘うようなことを言ってしまったが、享祐が本気モードで現れるなんて想像しただけでドキドキしてしまう。

(きつめの切れ長の目の海賊・・・両目で睨まれたりしたら、動けなくなっちゃう。)


そんな期待を思い描きながら、翌朝・・・文化祭最終日を迎えた。


午前中、見学をして午後からは眠れる森の美女の芝居へと移行する。

予定どおり、ラストシーンでは、王子役の生徒が大福を持ってきて眠り姫の唇に当てた。


(ふっ・・・なんだかくすぐったいし、和菓子のいいにおい。
ああ、お腹がすいてきた・・・いつ食べたらいいのかしら・・・。)


敦美がいつ、大福をパクリと食べたらいいのかタイミングを待っていたときだった。

会場がざわついて、誰かが敦美の唇の上に乗っかった大福をつかんで避けると、敦美の唇に温かい別の柔らかい感触が・・・した。
少しミントのような香りもする?


(まさか・・・先生扮する海賊さんが現れた?ちょっと、早すぎない?
先生は踊るときにきてくれるって・・・予定だったじゃない!

違う!!先生じゃない。)

「海賊じゃないわ。誰?それにどうして、私を抱えて走ってるの?うそぉ!!」


「じっとしていろ、落っことしてしまうだろ!敦美。」


「そ、その声は・・・直弥兄様!!なの。」


文化祭中は駐車場にもなっているグランドの出口に出て、直弥は作り物の仮面をはずした。


「どうして、仮面なんかつけてきたの?」


「冬弥が、今日は敦美が眠れる森の美女を演じて、その格好のまま舞踏会だってこれをつけられてしまったんだ。
来てみたら、敦美がクラスの男子にキスされそうだったから、すぐに連れ去って逃げてきたんだけど・・・なんで大福なんか食ってるんだ?」」


「これはキスのかわりよ。風紀を乱すわけにはいかないから、キスのかわりに大福を口にあててっていう筋書きだったのに、兄様はお芝居をぶちこわしたの。」


「えぇ!!そんなことはきいてない。冬弥のやつ・・・嘘を教えたな。
敦美がクラスの男どもにクジで決めたキスされるってきいたから、俺は・・・くそっ、やられた!」


「ぷっ!!あはははは。あいかわらず冬弥兄様は面白いこと好きね。
あいかわらず、直弥兄様はひっかかってるし・・・きゃはははは。」


「まいったな。帰国早々やられたよ。
いつもこんなふうに騙されてばかりだから、会社もままならないんだよなぁ。
潰してしまうまではいかなかったけど、かなりのリストラをやって、規模を小さくしたんだ。

だから海外の支社はすべてやめて日本だけにしぼった。
個人商店のおやじってとこだな。
敦美はこんな兄貴をバカにするか?」


「ううん、そんなことないよ。
分相応で楽しく暮らせるのがいちばんだと思うから。」


「じゃ、敦美そろそろ行こうか。それとも着替えてくるかい?」


「どこへ行くの?私これからダンスパーティーが残ってて。」


「とりあえず冬弥のマンションにしばらく住まわせてもらうことになった。
俺の家は父さんたちの近所を買った。
敦美もその方が安心だろう?」


「ちょ、ちょっと待って。私は転校することになるの?」


「そうだな・・・まぁ、ここを卒業してからでもいいけどな。
あと1年ほどだろう?
友達と離れるのも悲しいだろうし、しばらく冬弥に住むところを交代してもらうっていうのもアリだし。」


「そんな・・・。」


「あ、ダンスパーティーは誰が参加してもいいんだったな。
そのまま俺と踊ろう!いろいろ話したいことがあるんだ。」


「あ、でも・・・もう約束してる人もいるから。」


「女の子たちならいいけど、男はダメだぞ。」


「そ、そんなぁ。(海賊さんと直弥兄様が会ったらマズいかも。)」

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