抱えきれないほどの花束をあげよう!
翌日のワイドショーで陶芸家の田神享我の葬儀のことが発表された。

しかし、葬儀の様子以外の情報は結局わからずじまいだった。

映像で見ると、享祐は先頭で棺を抱えていた。

享我の若い妻のそばには、2人の中学生と小学生の男の子が立っていた。


(この子たちが、先生の弟さんなんだ。
すごくきれいな奥さんだわ。

若いし、きれいで・・・先生より少し年上なのかな。)


それからほどなく、冬休みへと入って敦美は冬弥のマンションへと帰っていった。


「敦美ちゃん・・・きいたよ。
大丈夫か?大丈夫じゃないよな。ごめんな。

せっかく、直兄のことも吹っ切ったのに・・・こんなことになってしまって。
俺も予測できなかったよ。

とにかく、早く忘れような。俺も忘れるから。
忘れる・・・だめだ。

享祐と絵の話がしたい。俺でもそう思うのに、敦美ちゃんは・・・ごめん。
いっしょに悲しむことしかできない兄ちゃんだよぉ。」



「いいの、冬弥兄様・・・。
今は私といっしょに泣いて。
私、早く立ち直るようにするから。がんばるから。」



クリスマスイブは過ぎ、クリスマスの夜、敦美は冬弥のマンションから享祐の家に近い公園にきていた。


(家はそのままになってるのね。
でも・・・表札が消えちゃってる。)


出るのはため息ばかり・・・これは悪い夢。

それとも、享祐という教師もラッキーと名乗った恋人もすべて幻だったのかも。

だから、秘密ばかりだったんだ・・・。



涙がとめどなく流れてくる。

何も言えないまま、もう会えないかもしれないから敦美は自分の思う通りに・・・って。


「思う通りになんかならないじゃない!」


ひとり、ひっくひっくと泣いて公園のベンチに腰掛けていると、隣からハンカチをわたしてくれた男がいた。


「これ使って。
かわいい娘がこんな昼間に、目を真っ赤に腫らしていてはだめだよ。

恋に破れても深呼吸して、前に進もうよ。」



「あなたは誰?」


「僕は都築陽向(つづきひなた)という。
仕事で近くにきたんだけど、君の涙に引きつけられてしまってね。」


「ごめんなさい。
ハンカチだいなしにしちゃって。すみません。」



「いいんですよ。君が泣き止んでくれればね。」


「今日だけ・・今日だけは泣かせてください。
明日からは泣かないようにしますから。
高校生らしくしますから・・・。」


「無理しなくていいんじゃない?
ゆっくり、自然に回復すればいいと思うよ。
立ち直るのに何日までって制限はないよ。」



「で、あなたは何者なんですか?
享祐さんとどういう関係なんですか?」


「ゲッ!バレてる。
あ、はははは。鋭いねぇ。
享祐さんはたぶん、敵になる人だよ。

敵になる人が私に何の御用ですか?」



「どんな女の子なのか見学にきてみたんだ。
普通に女子高生なんだな。」


「わかったならもういいでしょう。
私は拒絶されてしまったんです。

もうかかわりなんてありません。享祐さんは忘れるようにって伝言まであります。」



「そう。つらいね。
だけど僕も、君のような学生は忘れられる限り忘れて、新しい幸せを見つけるのに専念すべきだと思う。」



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