抱えきれないほどの花束をあげよう!
敦美は合田に花畑を少し見せてもらってから、いったん花屋の事務所へと入った。

すると、事務所の真ん中で享祐が見知らぬ女性を抱きしめていた。


「あ、あの・・・誰?
わ、私・・・やっぱり帰ります。
ごめんなさい!」


敦美は2人の雰囲気から自分が逃げ出すしかない空気を感じて、すぐに走って花屋を後にした。


「敦美ちゃん!・・・おい、おまえたちここで何をやってるんだ!!」


「それはこっちのセリフだ。おまえの兄貴はどうして彼女をこの店に追い出したりした?」


「いいのか七橋?敦美ちゃん泣いて出ていったぞ。」


「えっ、敦美も入ってきたのか?」


「ああ、俺より先にな。おまえたちが抱き合ってる姿を見て、きっとショックだったんだ。
追いかけないのか?」


「敦美もそこまで子どもじゃないさ。
あとでちゃんと説明する。
それより、どうして、武藤がここにいる?」


「ここで働きたいっていうから、店員として雇っている。
あくまでも店員としてならだがな。
七橋・・・悪いことはいわん。早く、敦美ちゃんを追いかけろ。
今、おまえは武藤瑠衣子にかまっている暇などないはずだ。

でないと、おまえも兄さん同様痛い目をみるぞ。」


「どういうことだ?」


「ここでは話ができない。
夜に会おう。
あ、彼女とはもうかかわらない方がいい。
でないと、おまえは敦美ちゃんとは結婚できなくなるぞ。」


「あとで、詳しく説明してくれ。」


享祐はそういうと、敦美を追いかけて出ていった。


敦美の行く先はわかっている。
盗聴できるアイテムのことは敦美には教えていない・・・。
そう、享祐は思っていたが、それは甘かった。

敦美は享祐からもらったものすべてを、体からとりはずして、段ボール箱に放り込んだ。
そして寮の押し入れに押し込むと、すぐに冬弥に連絡して冬弥の家に行った。


「冬弥兄様ぁ!わ、私・・・騙されてたみたい。
享祐さんと婚約解消するわ。」


「お、お・・い・・・どうした?
田神の家は落ち着いたんだろう?
私、もう嫌なの。
いつも享祐さんの秘密めいた世界のことは教えてもらえない。

だけど、それでもこの前まではその家のこととか、周りの人すべてが幸せになるように努力してるんだと理解してたつもりだった・・・。
でも、今度はだめみたい。
知らない女の人を大切に抱きしめてたの。
あんな顔知らない・・・。私もう飽きられたんだ・・・。」


「いいから落ち着け。兄ちゃんに最初からゆっくり説明してみな。」


敦美の説明に冬弥は・・・難しい顔をして考え込んでいた。

「敦美ちゃんの話だけでは不十分だな。
今までだってそんな感じのことは、あっただろ?
学校でだってまとわりつく女生徒とか先生とか・・・昔のあいつを知ってる女とかな。」


「でも・・・でも、今回はなんか違うの。
私にはあんな優しい顔してくれたことなかったもの。
それに、相手の女の人は私を完全に無視してた・・・。
すごくムカついて、嫌だって思って、私はおかしくなってしまったの?」


「敦美・・・それは、君が少し大人になって享祐を愛している証拠さ。
嫉妬心いっぱいで、子どものコンプレックスも抱えて、不安でいっぱいいっぱいになっている。
そうだろう?あいつが何を考えているのかさっぱりわからないことに腹がたっている。」


「私が悪いの?」


「いいや。敦美ちゃんはぜんぜん悪くない。そう思わせた享祐がすべて悪いんだ。
それに、あいつは俺に連絡をいれてくることも、君を捜してる気配もまだない。

たまにはさ・・・あいつを振り回してやってもいいんじゃないか。」


「そんなことして本当に嫌われたら?」

「敦美は今、何歳なの?」


「18になったばかりよ。」


「そんなに必死になるなって。享祐が何を言ったかは知らないが、敦美ちゃんは無理に婚約者になってあげることもないんだよ。
もっといろんな恋を知ってからでも遅くない。
兄ちゃんはそう思うな。」


「でも・・・」


「いいんだ。あいつが田神の家からもどったからって楽しくなかったんだろう?
ここんとこの敦美は遠慮してばかりだった。ちょっと俺の友人の民宿でも行ってリフレッシュしてこいよ。」


「リフレッシュ?」


「そう、新たな恋を見つけてきてもいいぞ。
ムシャクシャするときは、取り返しのつかないハメをはずしてしまわないように、気持ちだけリフレッシュさせてあげないとね。」
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