抱えきれないほどの花束をあげよう!
享祐は笑顔で手を広げた。


「戻ってきたいなら戻ってきたらいい。」


「どうして、突き放したくせに優しくするの?」


「突き放したつもりはないよ。
俺が何かやりたいと思ったときは、生きていくことに必死で思うようにはできなかった。

気が付くと、何となくしたいことができるようにはなったが、年をとっていた。
だから、敦美はしたいことがあるならできるようにしてやりたかったんだが・・・。」


「きっとやらなきゃいけないことだから、今やらなきゃいけないんだと思う。
今、傍にいてほしいから、来てほしいんだと思う。
ひとりでがんばらなきゃ!って足に力をいれてがんばったんだけど・・・実家にまで逃げてきたの。

もう・・・限界だったかも。」


そうつぶやくと、敦美は気を失うように倒れていった。
享祐は敦美を受け止めて、声をかける。


「敦美!!ほんとにもう・・・ごめん。
意地はってたんだな。
もっと早く謝りにきていればよかった。」



敦美が目を覚ますと、自分のベッドの上で、傍らには享祐が敦美の手を握っていた。


「ずっとついていてくれたの?」


「ああ、もう離れないからな。
あ、そうそう・・・雅光高校の中溝先生を通じて校長に連絡してもらったんだが。
君の卒業式の後で、俺が君へ卒業証書を授与してもいいって、許可してもらった。」


「お腹は大きいけど、卒業証書は受け取れるよ。」


「一般の卒業証書はみんなと同じだよ。
それとは別に、俺が作った卒業証書をね。」


「もしかして・・・絵なの?」


「そうさ。そのために、モデルやってもらわないとね。
ただし、腰やお腹が痛むときはなし。
これからは、やりたいことは思うようにできないかもしれない。
俺もめいっぱい過保護になるだろうしな。」


「先生が過保護宣言するの?」


「先生じゃなくて夫が妻を保護するのはあたりまえだろ?
もういい加減にあっちへいってよ!っていいたくなるくらい傍にいる。
これはもう決まったことだからな。」


「また勝手に決めちゃって・・・まぁいいわ。
私も命令しちゃうから。
これから赤ちゃんが産まれるまで、私をしっかりサポートしてください。」


「はいっ!」



それから敦美は北海道での学習予定はいったんキャンセルして、夕方から絵のモデルをした。
朝から午後まではというと、学校で勉強し、その後はなんと万須美が付きっ切りで料理、洗濯、掃除、裁縫、お茶、お花・・・と先生を呼んだり万須美自身が教えたりと大忙しの日々となった。


「ちょっと・・・ママぁ!!こんな急に忙しくなっちゃったら流産しちゃうじゃない。」


「そんなことで流産なんてしないわよ。
体には負担かけないようにしてるでしょ。
今まで、さぼりにさぼってたあんたが悪いんだから、妻として母としてがんばらなきゃならないんだから、つめこみだけどやらなきゃ!」


「あ・・・の、お義母さん。料理や洗濯だったら俺できますから。」


「まぁ、享祐さん・・・優しいのはいいんですけど、あなたがお仕事のときにこの娘がひとりだったら孫はどうなりますの?
今のままじゃ、ろくは母親になりませんよ。
お恥ずかしいですが、結婚なんてまだまだ先だと思ってきびしく教えませんでしたけど、赤ちゃんは生まれてくるのを待ってはくれません。
ちょうど安定期に入った間にやれることをやっておかなくてはね。」


「わかった・・・がんばれる限りがんばるわ。」
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