旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
けれどまあ、こちとら二十年近く花嫁修業をしてきた身である。鉄壁のラグジュアリースマイルに、記者への対応などちょろいものだ。たとえば。
「颯さんは結城の次期総会長というだけでなくルックスも端正でさぞ女性にモテそうですが、真奈美さんはその辺りのご心配は?」
今からゴシップに目を光らせている記者の下種な質問にも、私は一片たりとも怯まずに答えてみせる。
「颯さんはとても誠実な方ですから。心配する方が失礼かなって思っております」
もし颯が浮気なんぞすることがあったら、私は鬼神と化して嵐が吹き荒れるだろう。けれど、そんな気配はおくびにも出さず、私は愛らしくはにかみながら(皆さーん、結城の次期総会長は誠実ですよー)と企業アピールを交えた答えを口にする。うん、完璧。
そして仕上げに、恥ずかしそうに頬を染めて隣の颯をチラリと見やった。
こういうときにどう振る舞えばいいかなど熟知している颯も、わざと私と視線を絡ませ少し照れたように笑ってから「信頼されていて光栄です。嬉しいですね」などと適度に惚気を交えた満点の答え返す。
打ち合わせた訳でもないのに、この阿吽の呼吸。こういうときの私達って、息がピッタリ合うから不思議だ。上流階級のなせる技というか、まあ似た者同士なんだろうな。
……などと思っていたけれど、私は見逃さなかった。颯の笑顔がいつもよりわずかに強張っていることに。
私以上に外面が爽やかスマイルの鉄仮面のくせに、まさかこんなくだらない記者の質問に怯んだのだろうか。