旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
――いや、違う。今日の颯はいつもより少しだけ余裕がない。私以外の誰も気づかないほど些細なものだけど、明らかに不機嫌というか戸惑いというか、何かを抱えている。
そしてそれは、この後に行われる婚約披露パーティーの時間が近づくごとに大きくなっているような気がしていた。
颯のことだから下手を打つようなことはないだろうけど、笑顔のこわばりを私に見抜かれるなんて彼らしくない。そんな風に少し心配になってきたところで、記者会見は終了した。
ふたり揃ってスタジオから出れば、すぐさまセレクタリーとバトラー達が駆け寄ってきて私達を着替え室へと連れていく。当然この後のパーティーはお召替えだ。特に私は超スピードでドレスに着替え、メイクとヘアもそれに合わせてセットし直さなければならない。優雅に見える舞台の裏側とは、忙しないものなのだ。
それぞれ別の着替え室へ向かいながら、私はチラリと振り向き颯の背中を見やる。
……大丈夫かな、颯。
遠ざかっていく背中は彼らしい背筋の伸びた凛々しいものだったけれど、私の眼にはやっぱりいつもと少しだけ違うような感じがした。
***
夜六時。
東京湾を出発してから二時間が経ち、海は煌くサンセットの演出を終えて星空のステージへ移行しようとしている。
デッキの広大なガーデンで行われた婚約発表パーティーには、結城コンツェルン関係者を中心に、ざっと二百名が集まった。
私と颯の挨拶が済み乾杯の音頭と共に、船上から花火が上がる。ギリシャ風ガーデンは白色をベースにしており、彫刻のついた大型の噴水や大理石と石膏で出来たガゼボなどが、ムード良くライトアップされていた。
パーティーは立食形式。ともなれば私と颯は休む間もなく挨拶にまわることになる。