旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
 
遼君と会話する颯の表情は新鮮だった。もしかしたら私が見た中で一番屈託ないかも知れない。そんな笑顔だ。

子供の頃から留学やなんやで兄弟滅多に揃うことはないって聞いていたけど、遼君とは仲良しなんだな。

仲睦まじい兄弟の新しい一面を知って胸が温かくなっていたけれど――。

「そうそう、充兄さんも一緒だよ。ロスから一緒のジェットで来たんだ」

遼君が報告したその言葉に、颯の表情がわずかに強張ったのを私は見逃さなかった。

そして私は理解した。今日の颯から漂う僅かな不機嫌と緊張感の理由を。

その次の瞬間。

パーティー会場に小さなざわめきが起きた。何か騒動が起きたのではない、歓迎のような感嘆の声と次々に押し寄せる挨拶の声が混じり合っているのだ。

そのざわめきは徐々に近づいてくる。そして人波をモーゼのように別けて、その人物は私達の目の前までやって来た。

「よ。遅れて悪かったな」

軽く片手を上げて馴染みの友達のように軽い謝罪を口にするその態度と、圧倒されるほどのオーラが上手く噛み合わない。

同じ上流階級だからこそ分かる。一部の乱れもない所作、笑顔の作り方、全身から漂う品格と知性、そして颯や遼くんとさえ一線を画すほどの圧倒的なカリスマ性。


――結城充。
 
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