旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
颯のお兄さんで結城本家長男である充さんは、生まれたときから将来の結城家総会長として祖父に目を掛けられ、徹底したエリート教育を受けてきたらしい。
ずば抜けた先見の明と指導者としての資質は父を凌ぐと称賛されてきて、結城に携わる誰もが彼の将来に大きな期待を寄せていた……って、彼と婚約していた頃におじいからそう教えられた。
彼と会ったのは一度だけ、しかも十五年も前のことなので顔すらも覚えていなかった。
だから成長し大人になった充さんと初めて対面して、改めてこの人のすごさが分かった気がする。
周囲の人達が遠慮なく向ける視線は、尊敬や羨望だ。次期総会長の座を降りてもなお、充さんの能力に心酔している人は多い。そしてその視線に含まれる『やっぱり充に結城を継いで欲しかった』という願望は――確実に颯を傷つける。
「久しぶりだね、真奈美さん。十五年ぶりかな。お元気そうで何より」
「あ……はい! こちらこそ、ご無沙汰しております」
充さんの存在感に圧倒されていたところに、ふいに話しかけられて、私は今日初めて自分のペースを乱してしまった。
と同時に、隣に立つ颯の雰囲気がピリッと変わったのを感じる。
「改めて、おめでとう。颯、真奈美さん」
充さんは近くにいた給仕係からシャンパンを受け取ると、それをこちらに向けて軽く傾けた。
「ありがとう」
颯は抑揚のない声でそれに応える。一応笑みを浮かべてはいるけど、さっき遼くんと喋っていたときとは全く別物だ。