旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「ちょっと、颯! せっかく両想いになったんだから、もうちょっとイチャイチャしてくれたっていいじゃん!」
どうにも彼の態度に納得のいかない私は、廊下を歩く彼の背に追いつき肩を掴んで強引に振り向かせた。
すると。
「……っ! お前、うるさい!」
颯はムキになって私の手を振り払い、すぐに顔を背けた。……耳まで真っ赤になった顔を。
「……え? もしかして、すんごい照れてる……?」
当然彼は答えず、早歩きでズンズンと私を置いていく。けれどその態度がもう照れ隠しそのもので、私は自分の口角がニィッと上がっていくのを感じた。
「颯の照れ屋さーん! もー、可愛いんだからっ」
すぐさま颯のもとまで駆けていった私は、彼の腕に絡みつきうっとおしく擦り寄る。振りほどかれそうになっても、なんのそのである。
「女慣れしてるようなこと言ってたくせに、意外と純情なんだ? あ、もしかしてあれも意地張ってついた嘘とか? なーんて……」
冗談のつもりで言った台詞に、颯の顔が引きつった。私もそれを見て固まる。
「え……? 本当に……?」
無言で私の腕を振りほどき肩を怒らせて歩いていってしまった後ろ姿からは、言わずとも答えが出ている。
颯が子供の頃から私だけを一途に想っていたのならそれもあり得るし、負けず嫌いで高慢ちきな彼の性格を考えれば、ベテラン風吹かせて嘘をついたのも理解出来なくはない。
廊下に残された私はポカンと立ち尽くしながら、しみじみ思う。どうして毎日側にいながら、こんなに惚れ抜かれていることに気づかなかったのだろうと。
やきもちも暴君も俺様も、全部一途過ぎる想いを拗らせた産物でしかなかったというのに。
「颯、待って!」
何度だって嬉しさとときめきの込み上げてくる胸を押さえて、私は颯の背を追う。
やっぱり颯は一番だ。きっと世界で一番、粘着質で面倒で、けれど一途な恋をしている。
でもね、私だって負けない。
これからはきっともっと、この想いは大きく大きく育っていくのだから。