旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
あーやだやだ、緊張する。
だいたいなんでこんな大げさに厳かにやるのよ、たかが顔合わせなのに。どうせ嫌でも夫婦になるんだから、顔合わせも式もすっ飛ばしていきなり夫婦生活から始めちゃえばいいのに。面倒くさいったらありゃしない。
政略結婚の理不尽さが、無駄に豪華で大げさな場を用意された緊張と相まって、私を無性にイライラさせる。
さっさと終わらせたいなあと表情に出さずに思い、窮屈な帯で痛む肺から密かに溜息を吐き出したときだった。
「颯さまのご到着です」と結城のバトラーが告げると浮き彫りの施された観音開きの扉が開かれ、数人のフットマンを従えた紳士が中へと入ってきた。
周りを囲む執事たちとは明らかに違う異彩のオーラ。スラリとしなやかでいながら堂々とした出立ち。纏っているのはシンプルなグレーのピンストライプスーツだけど、他に類を見ない独特の光沢を持った生地はおそらく英国最高峰ミルのヴィンテージだ。それを一部の隙もなく着こなし、優雅でいながら人の上に立つ者らしい謹厳さも兼ね備えている。
一目見ただけでもこの男が日本一の巨大コンツェルン・結城の正統後継者であることは疑いようもなかった。
けれど、そんな眩いオーラなんかよりも驚くものを目にし、私は目を大きく見開いたまま『ええーーっ!!』と大声をあげたいのを必死にこらえている。
何故って――初めて会うはずの婚約者の顔は、忘れたくても忘れられないあの面立ちだったのだから。