旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「“はじめまして”。浅葱真奈美です。こちらこそ、本日はこのような席を設けて頂き颯さんにお会いすることが出来て嬉しく思います」
私も『はじめまして』にほんのりと強いアクセントを加えると、彼の口角が僅かにだけ上がった。
ああ、なんというロマンス! 私たちは婚約者同士でありながらお互いの顔も知らぬまま偶然の出会いを果たし、既に恋に落ちていたなんて!
そんな運命の出会いをふたりだけの秘密にして、私たちは初めて出会った婚約者を装う。
どうしようもなくロマンチックでドラマチックな再会に恋心は燃え上がり、私は今全身全霊で自分が浅葱真奈美であることに感謝していた。それからついでに、婚約を勝手に決めたおじいにも。
感動の再会にウットリとした笑顔を浮かべ煌めく幸せに浸っていると、ズッキーニ紳士……もとい、颯さんは更に私をときめきの渦へ巻き込む発言をした。
「緊張されてるようですね。よかったら食事の前に中庭の散歩など如何ですか? 少しの間ふたりきりでお喋りでもすれば、リラックス出来ると思いますが」
チャンスキターー!! 颯さんは邪魔な執事たちを一掃し、いきなりふたりきりになるチャンスを作ってくれた。当然これに乗らない訳がない。
「お気遣いありがとうございます。仰るとおり少し緊張してましたの。きっと外を歩いたら肩の力も抜けると思います。案内して頂けますか?」
「よろこんで」
颯さんは優雅に手を取ると、振袖の私の足元に気を使いながらスマートにエスコートする。それを見てウジャウジャいる結城の執事たちもうちの藤波も後方に控え、私と颯さんはまんまとふたりきりで外に出ることに成功した。