旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~


空にはまだ夕焼けの明るさが残っていたけれど、ホテルの中庭は既にライトアップされており、夏が盛りの薔薇が見事に咲き誇っている。広大な敷地の中央には中世ヨーロッパの宮殿を思わせる噴水広場。私たちは薔薇の小道をゆっくりと歩きながら、そこへ向かった。

「アイスオブバーグが綺麗に咲いてますね。ムンステッドウッドも。この季節は花が一回り小さくなるのに、大輪の花を咲かせてる。きっと手入れが素晴らしいのね」

ゴージャスな薔薇に目を細め、ここぞとばかりに必殺のラグジュアリースマイルを連発すれば、颯さんも私を見て極上のスマイルを浮かべる。

「詳しいのですね。さすが代々続く名家のご令嬢。気品も知性も一流でいらっしゃる」

「そんな。花が好きなだけですわ」

褒められて心の中で渾身のガッツポーズを決める。よっしゃ! 子供の頃は薔薇の名前なんかよりポケモンの名前を覚えたいって駄々こねて泣いてたけど、あのとき根気良く教え続けてくれた藤波に心から感謝する。どうもありがとう。

ところが颯さんはフッと小さく笑うと、どこか含みを持った笑顔をこちらに向け声を潜めて話しかけてきた。
 
< 24 / 155 >

この作品をシェア

pagetop