旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
ヤバい、大喧嘩してたなんて知られたらおじいに大目玉食らうと一瞬焦ったものの、そこは私も颯さんも生粋の上流階級。場を取り繕う鉄壁の笑顔など瞬時に作ることが出来る。
「なんでもない。草むらからバッタが飛び跳ねて、真奈美さんが驚いてしまっただけだよ」
「ごめんなさい、お騒がせしちゃって。でもひどいわ、颯さんてば。驚いた私を笑うんですもの」
「ははは、あまりにも愛らしい反応だったもので。真奈美さんは淑やかなのに愛嬌もあって、実に素晴らしい女性ですね」
「まあ……そんなに褒められたら恐縮してしまいますわ」
恥ずかしそうに俯いた私と和やかに微笑む颯さんを見て、どうやら執事たちも安心したらしい。まんまと騙された彼らは、いい雰囲気になっている主たちの邪魔をしないようにと、またしても遠巻きの待機に戻っていった。
藤波はじめ、執事たちに怪しまれないよう私はラグジュアリースマイルを顔に貼り付けたまま、隣に立つ颯さんを小声で罵る。
「なーにが『素晴らしい女性』よ。心にも思ってないくせに。あんたなんか閻魔さまに舌抜かれればいいのに」
そしてもちろん颯さんも、とびっきり上品で凛々しい笑顔のまま尊大な毒を吐く。