旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

――颯がわ、私を好きで、そんでもってカッコつけようと張り切ってたっていうの? そんな馬鹿な!

顔を真っ赤にしながら動揺している私に、さやかはクスクスと笑い声を立てると「それでは、おやすみなさいませ」と一礼してから部屋を出て行った。

残された部屋で、私はひとりアホみたいに胸を高鳴らせながら寝ている颯の顔をそっと覗きこんだ。

男らしいのに滑らかで綺麗な肌、伏せられた瞳を綴る長い睫毛、スゥッと通った高い鼻。

……カッコいい。無防備な寝顔でさえもこんなにカッコいいだなんて、やっぱり颯は完璧な王子さまだ。

「そんな王子さまが、私のために張り切るだなんて……ありえないよねえ」

再びソファーの前に跪き、彼の綺麗な寝顔をマジマジと眺めて苦笑しながら呟く。

……けれど。私は手を伸ばし、彼の顔に掛かっている髪をそっと指先で捲くりながら囁いた。

「ありえないとは思うけど……もし颯がカッコつけようとしてるならさ、無理しなくてもいいんだからね? どうせこれから一生一緒にいる仲じゃん。王子さまみたいな颯は好きだけど、こんな風にもっと素を曝け出しても、私はかまわないよ」

優しくて紳士的な颯は大好きだ。けど、政略結婚とはいえ私は妻なのだから、ありのままを見せてくれてもいいと思う。少しくらいカッコ悪くったって、疲れてたり弱いところがあったとしても――わりと私、平気だと思うよ?

熟睡している颯の耳にそんな届かない本音を囁いてから、私は身体を立ち上がらせると、ひとりで寝るには広すぎるベッドへと向かった。

 
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