旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

壮年の男性らしい渋さを滲ませた顔立ちが、かすかに口もとを緩ませて笑みを浮かべる。

幼い頃から見慣れたその笑顔は、わずか十日ぶりだというのに何だかやけに懐かしく感じた。

「相変わらず心配性だね、藤波は。そのうちハゲるよ。元気に決まってるじゃん、日本一の御曹司のもとで暮らしてるんだから。毎日栄養たっぷりのご飯食べて、好き勝手なことさせてもらってるよ。外には出してもらえないけど」

久しぶりに藤波と喋れるのが嬉しくて、自然と顔が綻んでいく。

浅葱の屋敷にいたときは口うるさくて仕方ない執事だと思っていたのに、やっぱり二十年近くも側にいた存在は特別だ。自分の心がどんどん温かくなっていくのを感じる。

「まあせっかく来てくれたんだし、座りなよ。私もおじいやお父さんが元気か聞きたいし。どう、うちの屋敷の方は? 変わりない?」

私は藤波をソファーに座るよう促すと、さやかにお茶を淹れるように命じた。普段は客人をもてなすのが仕事の彼が恐縮しながらもメイドからもてなしを受ける姿を見て、なんだか新鮮だなと思った。


藤波はひと通り浅葱家の近況を話すと、手にしていたティーカップを置き、改めて部屋をぐるりと見回した。

「……さすがは日本一のコンツェルンですね。この部屋へ通されるまで、ホテリエもメイドの対応も完璧でした。廊下にもチリひとつ落ちていなかったし、この部屋も家具の配置から日光の入り込む角度まで全て計算されつくされている。……執事として感服せざるを得ませんね」
 
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