旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
真顔でそんなことを語る藤波に、相変わらずクソ真面目だなあと思わず苦笑を零す。
「私もだいぶ慣れてきたけど、まあさすが結城家だなとは思うよ。でも正直、ちょっと堅苦しいかな。私は四十七歳にもなって主(あるじ)と真面目に追いかけっこしてくれる執事の方が、親しみがあっていいと思うけど」
ジョーク交じりにそう返せば、藤波は眉尻を下げなんとも言えない笑顔を浮かべながら、「……光栄です」と低くて柔らかな声で呟いた。
やがて腕時計を見てソファーから立ち上がると、藤波は改めて私の正面までやって来た。
「お嬢さま、わたくしはそろそろお暇致します。大旦那さまたちにお嬢さまがお元気だったことを一刻も早く報告したいので」
なんだ、もう行っちゃうのかと少し寂しくなりながらも、私も立ち上がって笑みを返す。
「うん、おじいたちに私は元気だよって伝えて。それから、総会長が許可してくれたんならまたここに来られるんでしょ? またいつでも会いに来てよ、藤波。あんたの顔見れないの寂しいしさ、不自由はないけど結構退屈はしてるんだ。だから週一ぐらいでおいで」
客人と面会の許可が出たのなら、私の監禁生活もさらに快適になるはずだ。そのうちおじいやお父さんにも会えるかもしれないし、もしかしたら友達のゆーちゃんぐらいなら呼べるようになるかも知れない。
そんな期待を籠めて私がニコニコと言うと、藤波はどうしてか真顔になり一瞬眉根を寄せた。
そして、こちらにそっと近付き声を最小限に潜めて告げる。