旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「本当にもう、心配性なんだから。そのうちハゲても知らないよ。見ての通り何ひとつ不自由のない暮らしをしてるし、颯とだってまあまあ上手くやれてる。藤波が心配することなんか、全っ然ないんだから。……でも、ありがとう。これは藤波の気持ちが籠もったお守りだと思って持っとく」
そう言って渡された端末をキュッと両手で握りしめると、藤波はわずかに口もとを綻ばせた。
とても穏やかで頼りがいを感じられる優しい面立ち。見慣れているはずなのに、なんだかいつもと違う感じがしたのは、十日ぶりに会ったせいだろうか。
それとも――その笑顔に少しだけ、切なさを感じたせいだろうか。
***
「心配性だなあ藤波は。せっかく手を焼かせてた私が家を出たんだから、その余裕を少しは自分のことにまわせばいいのに。いい加減、彼女ぐらい作るとかさあ」
藤波が帰って再びひとりになった部屋で、私は街が一望できるパノラマの窓辺に立つとボンヤリと外を眺めて呟いた。地上七十二階の部屋から見下ろす街はまるでミニチュアで、藤波の乗った車が帰ったかも分からない。
そっとワンピースのポケットに手を忍ばせると、彼が遺した端末の硬い感触が指に伝わった。
――確かに最初はこの生活が嫌で仕方なかったけど、今はこうして面会も許されるようになったし、何より颯と一緒に暮らせることが今はぶっちゃけ嬉しい。
きっとこれからも、この端末に万が一にでもお世話になることはないだろう。
「大丈夫だよ、藤波。あんたが心配することは何もないって」
執事の優しさに胸を温かくし、そんな独り言を小さく呟く。そうしていつにも増して明るい気持ちになった私だったけれど――。
「お、お待ちください、颯さま! 全ては私どもの責任です! どうか真奈美さまを責めるようなことはなさらないでください!」
そんなさやかの悲痛な声とこちらへ向かってくる足音が扉の外から聞こえて、私は驚いて振り向いた。