旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
廊下がにわかに騒がしくなったと思うと、すぐさま部屋にひとりの女性が駆け込んできた。
白髪をきっちりとひとつにまとめあげ、メイドの制服を一部の隙もなく着こなした、いかにも真面目そうな初老の女性。彼女がこのホテルの執事とメイドを統括するメイド長だ。
「颯さま、このたびはわたくし共の不手際で大変失礼を致しました……!」
メイド長は颯の前まで駆け寄ると深々と頭を下げて謝罪した。立ち上がり直したさやかも、その隣に並んで頭を下げる。
どうして彼女たちが謝る必要があるのか分からずに面食らっていると、颯は厳しい表情のまま不機嫌な声色で言い放った。
「どうして俺の許可もなく客人を勝手に通した」
そんな横柄な質問に、メイド長は緊張に強張った顔を上げて答える。
「じ、仁さまが……大旦那さまが許可されましたので……」
聞くまでもなく至極真っ当な答えだった。結城財閥とコンツェルンの全ての決定権を持つ結城仁総会長がOKを出したのだ。それ以上に必要な許可などない。
けれど、颯は眉間にしわを増やすとさらに尊大に言い放った。