旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
けれど颯はさらに不機嫌そうな表情を滲ませ、私と対峙する。
「メイドの躾はあるじの沽券に関わる。口を出すな」
「颯があるじなら、その妻である私にだって口出す権利があるでしょ!」
そう反論した私はメイド長とさやかを背に庇うと、正面に立つ颯をきつく睨みつけた。
「彼女たちをクビになんて、絶対にさせない。そんなの私が許さない。もし誰かひとりでもクビにしたりしたら、私、何が何でもこの婚約を白紙にするからね。結城の次期総会長は最低の暴君だって、一生蔑んでやるんだから」
いつもの感情的な反論じゃない、真剣な様相で言った私に、颯もさすがに口を噤んだ。
部屋にはしばらく張り詰めた沈黙が流れる。
睨みあう私と颯、真っ青な顔で息を呑むメイドたち。きっと廊下では待機してる他のメイドや秘書たちも固唾を呑んでいるんだろう。
そんな緊張感のなか、颯がチッと忌々しげに舌打ちをした。
そしてクルリと踵を返すと、「勝手にしろ」とだけ言い放って扉へ向かって歩いていってしまった。
一瞬呆気に取られてしまったものの、扉を開き秘書に向かって「おい、社に戻るぞ。ヘリを出せ」と命令して去っていく颯の後ろ姿を見て、私はホーっと大きく息を吐き出す。
どうやら彼の怒りは治まってないものの、最悪の事態はまぬがれたようだ。