旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「……よかった。とりあえず、クビってことにはならないみたい」
安堵の笑みを浮かべて振り返れば、メイド長もさやかも目にいっぱいの涙を浮かべて感極まった顔をしていた。
「真奈美さま……、ありがとうございます。私どものせいで大変な事態になってしまったのに、温情までくださって……! このご恩は一生忘れません……!」
「真奈美さま……私たちが迂闊な行動をしたばかりに、颯さまをあんなに怒らせてしまって本当に申し訳ありません……」
「いやいや、今のはどう考えても颯が悪いんだから、あんたちが気負う必要ないんだからね。ほら、それより泣いてないで仕事、仕事」
わざと明るく笑って発破をかけてやれば、さやかたちも微笑んで頷き仕事へ戻っていった。
とりあえず、罪のないメイドたちが助かったのは良かったけれど……。再び部屋にひとりになった私はソファーに座りながら、さっき颯が出て行った扉をぼんやりと眺める。
颯の暴君ぶりは最低だし、たかが執事が面会に来ただけであんなに怒り狂う心情も理解出来ない。今朝まで少し近くなったように感じていた颯の心が、今はまた全然分からない。けど。
「……なんであんな顔すんの……」
部屋を出て行ったときの颯の横顔を思い出して、私は静かに胸を痛める。
ただ単に怒ってるだけじゃない。どこかやるせなさを含んだ悔しそうな顔。
颯のそんな表情に気付いてしまった私は、彼の胸中がますます分からなくなったのに、なんだか切なくなってしまう。
私を責めて、メイドたちも責めて、なのにあんな寂しそうな顔するなんて……。
「よく分かんないな、颯って……」
あんなに腹が立っていたのに、今はなんだか胸が痛くなくなってしまった私は、手元のクッションを胸に抱くと天井を仰いで、そのままソファーに寝そべった。