旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「やっぱあんたなんか大っきらい。義務でも政略結婚でも妻の気持ちをないがしろにして抱く男なんて、世界で一番最低。私、颯になんか抱かれたくない」
言いながら、うっかり涙目になってきてしまった。
だって悔しい。悔しすぎるんだもん。
政略結婚なことも愛がないことも承知してるけど、それがいつだって悲しくて私の胸を痛めてると言うのに。よりによって初夜という何より大切な場面でとどめを刺すだなんて、あまりにも酷いんじゃない?
23年間大切に守ってきた清廉な身体。昨日までは初めての恋心と共に颯に捧げたいとさえ思っていたのに、『義務』と一刀両断されたあげく優しさの欠片もない態度で抱こうとするなんて、あまりにも悲しい。悔しい。腹が立つ!
「出てって。あんたの顔見るのも同じ部屋で寝るのも、もういや。颯が出て行かないなら、私が今夜から別の部屋で寝る」
すっかり涙声になってしまいながら言うと、ようやく颯は我を取り戻したようで、何度か瞬きをしてから赤くなった自分の頬をそっと押さえた。
そして僅かに眉を顰めたかと思うと、ふっと顔を逸らしそのままベッドから立ち上がった。
颯は無言だった。謝りもしなければ反論もしない。ただ、脱ぎ捨てたバスローブを拾い、羽織りなおして何も言わずにドアへと向かう。
その後ろ姿を、私はどうしようもないやるせなさで見ていた。
「……颯の馬鹿……」
呟いた声は小さかったのできっと届かなかっただろう。
そうして颯は部屋から出て行き――この夜から、私たちは婚約者でありながら別々の寝室で寝ることとなった。