旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
『……では、明日のイチヨンゼロゼロに、先ほどの手筈通りで』
「頼んだわよ」
颯もメイドたちも寝静まった深夜。トイレの中で声を顰めながら、端末の向こうの藤波と連絡をとった。
藤波から端末を受け取ったときには、まさか本当にこれを使う日がくるなんて思ってもいなかったのに。一ヶ月も経たないうちに逃亡を企てる羽目になるなんて、となんだかガッカリとした気持ちになる。
――私が本気で逃亡したら、颯はどう思うだろうか。
少しは反省してくれる? 監禁したり面会を遮断したりしたことを、やりすぎたと考えを改めてくれるだろうか。
『どうせ政略結婚なんだから逃げっこない』とたかをくくって私を扱ったこと、後悔してくれるだろうか。
そんなことを考えながらトイレを出て廊下を歩いていた私は、ふと足を止める。
「……私……なんで逃げるんだろう?」
横暴な颯との政略結婚から逃げたいのか、それとも本気で逃げる意思を見せることで彼の変化を期待してるのか。
自分でもよく分からなくなってしまったけれど。とにかく今は監獄のようなこの生活から一刻も早く逃げ出したいと、それだけを願って部屋に戻った。