【完】甘い香りに誘われて 5 極道×やんちゃな女たち
池のほとりの鳩や雀がお菓子の屑でも啄んでいるのか
それさえも微笑んでみていた。
その時、風を切るような音が聞こえ
1羽の鳩の身体に矢が刺さった。
バタバタバタッ
静かだった光景が一瞬にして変わった。
五郎ちゃんも三浦さんも飲んでいたコーヒーをベンチに置き当たりを見回した。
散歩中の老夫婦がその鳩を見つけ心配そうに傍へと近づいた。
「危なかと」
五郎ちゃんはベンチから立ち上がり撃たれた鳩を抱き上げようとするお爺さんに急いで駆け寄った瞬間
「ウッ」
五郎ちゃんの低い呻き声がした。
「五郎ちゃん!」
「四郎、ここから離れるばい。この二人も連れて早よここから離れるばい」
とっさに横を見ると三浦さんの姿はもうそこにはない。
背中に矢が刺さり膝をつく五郎ちゃんの前に顔面蒼白の老夫婦が立っている。
それでも後方からは、五郎ちゃんが大きな壁になっているだろう。
「お爺さん、お婆さんこっちへ。さぁ早く」
そう言っている間に鈍い音がしてもう1本五郎ちゃんの背中に矢が刺さった。
「五郎ちゃん!」
「ええから。早うこの人らを」
五郎ちゃんはお爺さんの背中をポンと押し
「婆さん守らにゃいけんとよ。早う行くと」
「お爺さんお婆さん早く」
私は急いで近づくと二人の手をとりベンチの後方の繁みに入り
「このまま上に上がれば通りに出ます」
「あの方は」
「五郎ちゃんのとこには私が戻ります。心配しないで身を低くして繁みの中を逃げて下さい」
すみませんすみませんと言いながら老夫婦はフラフラと通りの方へ逃げて行った。