【完】甘い香りに誘われて 5 極道×やんちゃな女たち
「結衣」
隼の声に振り向くと警察の人と一緒に隼と響さんが歩いてきた。
「隼…五郎ちゃんが五郎ちゃんが」
「結衣、落ち着け。大丈夫だ。まずトイレに行って服を着替えてその血だらけな顔や手を洗ってこい」
紙袋を手渡されすぐ横にあるトイレに入った。
鏡に写る自分の恐ろしい姿に吐き気を催しゲーゲーと吐いてしまった。
個室の中で服を着替え、水道で手や顔を綺麗に洗うと乱れた髪を手ぐしで整えてから重い足取りでドアを開けて外へ出た。
トイレの前で待っていた隼が肩を抱き備え付けの椅子に座らせるとコーヒーを手にのせた。
「黙って飲め」
隼は、プルタブを開けるために一度私の手から缶コーヒーをとり、そしてまたしっかりと握らせる。
カタカタと小さな振動が起きているのは、私の身体が震えているからだろう。
「心配するなと言っても大丈夫だと言っても無理なのはわかる。でも結衣にはやらなきゃいけない事があるのはわかるな」
「うん。ぶっ潰す」
「結衣、違うって。落ち着けって」
私もなぜ自分の思考がそれを導き、口から出たのかわからない。
三浦さんが捕まえてきたときの狙い撃ちは誰もが本気ではなかったと思う。
だけど私の今の心の中には、隠せないほどの怒りと憎しみが存在している。
「結衣、頼むからひとくちでも飲んでくれ」
そう言われてコーヒーの缶に口をつけた。
「大丈夫だ」
優しく隼に抱き寄せられるとウゥッ…声とともにいくつもの涙の粒が着替えたばかりの服を濡らした。