【完】甘い香りに誘われて 5 極道×やんちゃな女たち
そして病院では、落ち着くよう結衣の肩に添えられた隼の手がリズムを刻んでいると響と一緒に小川が歩いてきた。
すっかり顔なじみの二人は笑いながら話をしている。
「おぅ結衣、落ち着いたか」
「なんで小川のおっさんが一緒なんだよ。抗争じゃねぇぞ」
「撃たれたのが平良だって聞いて俺らが動いてるってわけだ」
俯いていた私に
「結衣」
響さんが名前を呼んだ。
改めて顔を見るとその人は見覚えがある。
隼を連れて行った人だ。
「覚えてるか?暴力団担当の刑事」
「はい」
「小川って言います。あの時、仁義を通す組なので心配してないと言ったのを覚えてますよ」
「はい。確かに私が言いました」
「落ち着いたら事件について少し話しを聞かせてくれませんか」
隼の言っていたするべき事というのは、この事だったのか。
チラッと隼を見ると笑いながらコクッと頷くから間違いない。
「結衣にやるべき事があるのがわかるか聞いたら、ぶっ潰すって」
言った隼は失礼なぐらい横で笑いだし
響さんもそいつは物騒だと笑っている。
「三浦さんは?三浦さんは大丈夫ですよね。何も悪くないんです。犯人を捕まえた人です」
「大丈夫。聴取に協力してもらってるだけだからね。終わったらすぐ戻るんで心配しなくていい」
「はい。有難うございます」
小川はこの可愛らしい女性が日本中の極道を動かすという事が未だに信じられない。
だが、極道を統一させた立役者が藤堂結衣だという事は当時の暴力団担当者であれば知らないものはいない。
藤堂結衣を敵に回す事は日本中の極道の標的になるという事だ。
自分1人ならまだしも、極道が社会の中で好き勝手に力を誇示しはじめたらその惨憺たる有様は目もあてられないだろう。
その組織を動かす恐ろしい力を持っているのがこの小さな可愛い女性だというのが信じがたい。
「三浦から結衣さんの逆鱗に触れたやつがいたと聞いて慌てて飛んできたんだよ。組長や若でも植木でも止められないって言うんでね」
「止められねぇな」
「止められるぐれぇなら苦労しねぇよ」
本気で組長も若も言ってるのか。
「止まるわよ」
「「止まらねぇよ」」
そんなやりとりの後は頬を膨らませ失礼過ぎると言う姿は極道の姐さんとは思えない姿だ。