【完】甘い香りに誘われて 5 極道×やんちゃな女たち
「極道である事で菫や琉がどんな思いをするかは、私より隼の方がよくわかっていると思うの。
でもさ、今から心配しても仕方ないし堅気であっても傷つけあったりもするわけでしょ。
その時に菫や琉が気持ちを吐き出せる場であってあげたらいいんじゃないのかな。
聞いてそして一緒に考える。隼も奏くんもそれに佐和子さんや明日実さんも乗り越えてきたんだから私達の子が出来ないわけがないわ」
「あぁ」
「身の安全だけは、私の予想では甘いというのは自覚したから隼に一切任せるわ。それで自分の意見をあの子たちが言うようになったらその時にまた相談しようよ」
「あぁ」
口数が少ないというのは他にも思い悩む事柄の深さだろう。
「深刻なの?」
私の問いかけにハッとしたような顔を見せてから大丈夫だと優しく微笑んだ。
私達の間に眠る菫を抱き上げると
「今日は結衣が真ん中」
そう言って隼の腕の中へ抱きしめてくれた。
私が隼の腕の中が落ち着くように隼も私を抱きしめる事で落ち着くのかもしれない。
腕の中から隼の顔を見上げ一番近くにある顎にそっとキスをすると隼は額にキスを落とす。
甘いムードなのに続く会話は
「西と南が騒がしいんでしょ」
とてつもなく物騒な話。
「真の極道じゃない人たちなんだと思う」
「真の極道か」
社会から外れた人間が落ちた世界が極道と言われる。
だがその極道の中には厳しい掟がある。
悪い人間だという事をひけらかすように堅気の世界で威勢を張るのはただのチンピラだ。
そんな人に仁義だ任侠だと言ったところでわかるわけがない。
悪と言われる世界だからこそその掟を守れる人間を人選した方がいいぐらいだ。
真剣な顔つきだった隼も私の話を聞くうちにだんだんと笑いだし
「試験や研修でもしろっていうのかよ」
「あってもいいぐらいよ。極道を名乗るならその名に恥じないように生きてもらわなきゃ困る」
「結衣が言うと極道がすげぇいいもんに聞こえんだよな」
「少なくとも私の知ってる極道はいいよ?」
「中途半端な連中が見境いなくそれこそ手あたり次第にやりやがる。最近まで堅気にいた連中だから踏み入れる事に何の迷いももってねぇんだわ」
隼はそう言ったあとで
「結衣、もう日本刀抜くなよ」
「わかってるわよ」
そんな会話をしながら眠りについた。