【完】甘い香りに誘われて 5 極道×やんちゃな女たち
今日は何事もなかったからだろう。
いつもよりずっとゆっくりとお茶の時間がとれた。
「ぼちぼち夕飯だね」
今日のおかずは何だろうと話していると梅野さんの声がした。
返事をすると襖が開き
「ご招待にあがりやした」
笑いながら私たちを呼んだ。
「何の招待かしら」
立ち上がり、梅野さんの後に続いて中庭に出ると組員さんが何人もいて
もちろん菫も誇らしげな顔で立っている。
「ママ、見てて」
門田さんと吉田さんが持った鉄のパイプで菫がヒョイッと逆上がりをしてみせた。
「菫!すごい」
思わず拍手だ。
「運動神経いいですよ。今日一日で出来るようになりやした」
「菫、教えてもらったんだ」
「うん」
それはもう得意気な顔だ。
だけど私はその鉄パイプはどこから来たんだって事が気にかかり出した。
わざわざ買った?
いやそうだ。
きっとそうだと信じたい。
ヤーッとかトーッとかオリャッとか
とにかくそんな情景がちらついて心中穏やかではない。
私の表情を読み取ったのだろうか。
「結衣さん、新品でごぜぇやすよ。細すぎます」
三浦さんの囁きにどれほど安堵した事か。
「やっぱり私の心を読みますね」
「あっしも同じ事を思いやしたから」
二人で小さく笑いながら心の底から安堵して菫を見守った。