夏色かき氷【短編集】
歳上の彼
先生と出会ったのは、高校の入学式の日だった。新入生だというのに、当日、私は寝坊して遅刻してしまった。
その上、入学式のパンフレットを忘れてしまったから、校内の見取り図も分からない。
途中からこっそり参加しようと思っていた入学式にも、間に合いそうにないな。
まだ式すら参加していない学校の職員室にも行きづらい。どうしよう。後から遅れて教室入るの嫌だなぁ。
校門前でまごまごしている私に声をかけてくれたのが、先生だった。
「君、新入生?パンフレットは、忘れた?」
絶対怒られると思ってうつむいていると、
「裏から入れば、大丈夫!」
イタズラっコのように、先生は言った。
「俺も、学生の時は遅刻常習者でさ。朝は眠いしね~。それより、入学おめでとうっ!」
こんな友達みたいな先生、初めてだ。まだ、新任?まあ、どっちでもいっか。高校生活、楽しくなりそう。
始めはそうとしか思わなかったのに、気が付くと、私は先生を好きになっていた。
先生は別のクラスの担任だったし、ウチのクラスの教科も担当していないけど、私に対する印象が強かったらしく、廊下で会うたびに先生から声をかけてくれたのだ。無視するわけにもいかないし、私も最初は、積極的にしゃべろうとは考えていなかった。
なのに、入学して3ヶ月がたつ頃には、私の方から先生に関わるようになっていた。
先生、大好きです。そんな気持ちだけで、先生と話している。
「先生って、彼女いるんですかー?」
違うクラスの女子達が、先生にそんな質問をしているのがたまたま聞こえて、私の心臓は口から飛び出しそうになった。最近知ったんだけど、先生は一部の女子生徒達から人気があるらしい。あのコ達も、先生が好きなのかもしれない。つい、聞き耳を立ててしまう。
「いないよ。それより、この前のプリント、今日中に出すんだぞ。もう延期してあげないからなっ」
先生、いないんだ。好きな人、いないんだ。頬が熱くなる。
だからって、私みたいな生徒なんかに好かれても迷惑に違いないって思う。でも、先生に特別な人がいないって知って、すごく嬉しい。
歳上だから、絶対、そういう女の人がいると思ってたのに。
一方的な想いだけど、私、先生を好きでいていいかな。早く、大人になりたい。