夏色かき氷【短編集】
片想いクレープ

最近、ますます暑くなったな。

7月の学校帰り、手の甲で額の汗を拭いながら、俺は学校を出た。

友達とは適当に別れて、駅前のクレープ屋に立ち寄る。

春とか秋には、学校帰りの高校生達でにぎわい人だかりができるのに、夏のクレープ屋は閑散(かんさん)としていた。それもそうか、生クリームって、夏にはあんまり食べたくならないもんな、と、納得。

納得しつつも、俺は毎週のようにクレープ屋を訪れていた。夏でも。その理由は――。

「いらっしゃいませ」

いた!

カウンター越しに店員の女性に気付き、俺は目をそらしてしまった。やばい。ドキドキしてしまう。

「バナナとブルーベリーのクレープ一個ください」

何とか、彼女の目を見て注文完了。

「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

柔らかい笑顔で店の奥に引っ込む女性店員。俺は、いつの頃からか、彼女を好きになってしまった。

ここの店員は、全体的に年齢層が高いらしい。友達がそう言っていた。

俺が好きになったあの人も、そうだと思う。おそらく、大人の女性に違いない。大学生より上っぽい。下手したら主婦とかかもしれない。見た目は可愛らしい人だけど、雰囲気が落ち着いていて、タメの女子とは違うから。

きっと、クレープ屋の彼女からしたら、俺なんてガキでしかなくて、こうやって好意を持たれてるだなんてこれっぽっちも思っていないだろう。

もしこっちから彼女に告白したとしても、「からかってます?」って言われるに違いない。分かってるのに、俺は片想いをやめられなかった。


キッカケはほんのささいなことだった。

部活の試合で負けた日の夜、たまたまここへ来たら、彼女が笑顔で「元気出して下さいね」って言って、クレープを出してくれた。それだけで好きになるなんてバカみたいかもって、自分でも思う。相手はあくまで店員として親切にしてくれただけなんだろうし。

でも、俺は、彼女の一言にすごく励まされた。部活やめようかーくらい落ち込んでたけど、彼女のクレープを食べて復活した。

それ以来、俺は彼女に会うためだけにクレープを買いに行った。告白したくて仕方ないけど、今は、これでいい。

彼女が作ってくれたクレープを食べて、切ない気分が少し回復した。

夏はまだまだ続きそうだ。俺の恋と同じくらい長く。
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