夏色かき氷【短編集】
追いつきたくて
今まで私は、アニメやマンガにしか興味がなかった。
毎週のように近所の大型書店に行き、新作のマンガやラノベをチェックする。
いわゆる、オタクだ。時々『痛いヤツ』と叩かれるけど、そんなの気にしない。
友達は私の趣味を理解し、カラオケでアニソン歌っても引かないでいてくれる。アニメはもう、私の生活の一部みたいになってた。
むしろ、私をキッカケにみんながアニメを好きになってくれる。それが、何よりも嬉しかった。
「これ、俺も好きなんですよ。面白いですよね」
いつも行く大型書店の店員さんが、レジ対応の時にそう言ってくれた。
いつも話しかけてくれる彼を、私はいつしか好きになってしまった。だけど……。
「店員だから愛想よくしてるだけに決まってるじゃん。本気でオタクを好きになる男なんていないよ。それに、本屋で働くような男は、お姉ちゃんとは逆のタイプが好きに決まってるよ」
妹にそう言われてしまった。
私は急に、今までの自分が恥ずかしくなった。
生き甲斐だったアニメ。自分もいつかマンガ家になって自分の作品を売れるような人になりたいと思ってた。だけど……。
書店で働くあの人は、こんな私を好きになんかなってくれないよね?
――それから私は、知的な女を目指して、それっぽく見える本ばかりレジに持っていくようにした。なるべく、あの人がレジにいる時を狙って。
そんなことを数ヵ月続けていたら、彼の方から、意外なことを言われた。
「最近、何か、あったんですか?○○の最新刊出てますよ?」
○○は、私が前から連載を楽しみにしていたライトノベルのタイトルだった。
「すみません、急に。今買うと初回購入特典にしおりとスマホの待受画面ダウンロードできますから、売り切れる前にと思って……」
「……買います!」
やっぱり、好きなことを我慢するなんて無理だ。
それに、この人は私の趣味を分かってくれてる。妹の言うことに影響されすぎて、大事なことを見逃すところだった。
私は私のまま、飾らない自分で彼にぶつかろう。それしかない。
「あの。店員さんのオススメとかあれば、教えてもらえませんか?」
――…その一言が、結果、彼と私を、いつでも連絡の取り合える関係に導いた。
勇気を出して、本当によかった。
趣味を理解してくれる人が増えて、私はすごく幸せだ。