夏色かき氷【短編集】
ブルージルコンに閉じ込めた秘密
「二人だけの秘密」
交わした約束は穏やかで、どこか切なかった。
人前で演じているうちに本当の自分がどれか分からなくなった。今感じている喜びや悲しみも仮の自分が創り出した幻なんじゃないかと思うほどに……。
本音を請け負ってくれるもうひとつの名前だけが、唯一の救い。彼女は私を上手に操り行き場のない思いを解放させてくれた。だけど、しょせん自分。救う側にも限界があった。
そんな時、青空のような人に話しかけられた。最初は戸惑った。人から興味関心を抱かれることが、いつの頃からか苦手になっていたから……。それに、そう……。イミテーションの宝石のように外面だけ飾って中身のない私に関心を持たれても、相手に何も返せないと思ったから。「関わったのが時間の無駄だった」と思われるのがこわかったーー。
過去の経験から、人はみんな損得勘定で動いていると学習していた。優しいことを言う人ほど腹黒いということも。笑顔の裏で湧いた悪意を見たのは一度や二度ではない。
でも、その人とやり取りを重ねるごとに、それは偏った物の見方なんだと思い知り、いい意味で衝撃を受けた。私は小さい人間。
空を眺め、文章に並べ、音楽に乗せ、人を慈しむことでありったけの自分を表現したあの人は、夏の青空のように、冬の星々のように、純粋で清々しい。エネルギーを吸収し放出する、ブルージルコンみたいな人だと思った。
形ばかりで全く身につかないけど、私もあの人のような光がほしい。
本物に輝きたい。いつか、きっと。
近いようで、遠い。あの人と私の間には蒼くて透明な壁がある。それは、ため息で消える薄い幕なのかもしれないし、何億もの言葉を重ねてようやく崩される城壁のようなものなのかもしれない。
それを大切にしたい。そしてーー。
ブルージルコンの中に閉じ込めた想いを抱けたこの日を、きっと忘れない。明日への力にしてみせる。必ず。