夏色かき氷【短編集】
メランコリーレイン
みんな、雨の日を嫌がる。
でも、私は雨の日が楽しみで仕方ない。
あの人に会えるからだ。
私の通う高校は、途中電車に乗って片道1時間の距離にある。
あの人と出会ったのは、梅雨の季節。
雨足の強い日、いったんやんだ雨に安心して、うっかり車内に傘を忘れてしまった。
それを差し出してくれたのは、他校に通うあの人だった。
あの人の通う高校の制服は学ランで、自転車通学の生徒が多いらしい。
そのせいか、あの人は、晴れの日は電車に乗ってこない……。
傘を渡してもらった日以来、私とあの人は電車の中で顔を見合わせ、おじぎしあうようになった。
それも、雨の降る日限定。
話したりケータイの番号を交換することもなかった。
ただ、視線を交わすだけ。
でも、それでよかった。
あの人に会える雨の日が待ち遠しくなっていく。
私にとって、雨は楽しみな日に変わった。
あの人に会わなくなって一ヶ月。
久しぶりに朝から強い雨が降った夏の日。
あの人に会えるのを楽しみに電車に乗ると、あの人の隣には、セーラー服を着た女の子の姿があった。
あの人と同じ高校の制服。
幸せそうな横顔。
あの人には、彼女ができた。
私は違う車両に乗り、窓の外を見る。
雨に濡れた灰色の空を見て、私は初めて、雨の日を悲しいと思った。