夏色かき氷【短編集】
夏色かき氷

木々の緑が綺麗に映える、夏の日々。

日本の中心部にある、某神社。

そこでは、毎年夏祭りが行われる。


近所の高校に通う17歳の少年は、今年も、両親が出す屋台の手伝いをしていた。

彼の両親は、昔ながらの職人で、祭のたびに店を出しては、訪れる客に焼きたてのお好み焼きを振る舞っていた。


祭の朝。

少年は、両親に指示されるがまま仕込みの手伝いをしたり、買い出しの確認をする。

本当ならサボって、自分も友達のように夏祭りを楽しみたいところだが、素直に手伝うのには理由があった。

“今年は、あのコ来るかな?”

夕暮れ時になり、本格的に祭の雰囲気が漂うと、少年は屋台の裏から表に出て、辺りを見渡した。

毎年必ず、少年のお好み焼きを買っていく少女がいる。


彼女の名前は知らないが、これまで毎年、欠かさず会っている。

少年が屋台の手伝いを始めて、今年で10年目。

“来年は受験で祭の手伝いができないから、今年こそは……!”

少年は、自分のケータイ番号を書いた紙を片手ににぎりしめて、例の少女が来るのを待った。


やはり、少女は例年のごとく現れた。

これまでと全く同じ。

いちごシロップのかかったかき氷を片手に、少年の店の前に立ち、

「イカ玉一個ください」

500円玉を、少年の手に差し出す。

「はい、ありがとうございますっ」

少年の声は裏返る。

“今しかない……!”

番号を書いたメモを少女に渡そうとした瞬間、少女はなぜか、悲しげにうつむく。

「ここのお好み焼き買うの、今日で最後になりそうなんです。

いつも、おいしいお好み焼きをありがとうございました」

「何かあったんすか?」

メモを引っ込め、少年は訪ねる。

「私、来月、引っ越すんです」

彼女は、両親の都合で遠くに引っ越すと言った。

「今まで、ありがとうございました」

少女は言い、お好み焼きと引き換えに、自分の持っていたかき氷を少年に渡した。

「暑い中、大変ですよね。食べて下さい。

これからもお店、頑張ってください」

「あの……!」

かき氷を受け取ると同時に、少年は勇気を振り絞って彼女にメモを渡した。

「引っ越しても、メールします!

よかったら、友達になりませんかっ?」

少女はやや驚いていたが、嬉しそうにうなずき、メモを大切そうにしまうと、来た道を戻っていった。
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