夏色かき氷【短編集】
おみくじ
お正月の神社。
私は前、この近所に住んでいたから、久しぶりに見る景色や空気の匂いが、ちょっとだけ懐かしい。
今日は、ある人に誘われて、こうして初詣に来ている。去年の夏にアドレス交換をした人。
彼の両親は、毎年夏にこの神社で屋台を出していた。彼は手伝いにきていた。
毎年お好み焼きを買っていたから顔だけは知っていたけど、私は彼のことをよく知らなかった。
知っているのは、彼の作るお好み焼きがうんとおいしいということと、「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の声だけ。
だから、友達になりたいと言われた時は驚いて、言葉が出なかった。
みんなが遊んでる中、真夏の暑い日に働く彼をすごいと思ってた。
悪い人ではないかも、と、アドレス交換をした。私が引っ越してからも、彼とはメールのやり取りを続けていた。
今日はまさに、数ヵ月ぶりの再会。
メールのやり取りでは顔を見ずに済むし、無言も気にならないから良かったけど、こうして再会したとたん、彼と何を話せばいいのか分からなくなった……。
「おみくじやってこ?」
漂う沈黙をやぶったのは彼だった。自分の口下手さに嫌気がしつつ、私は焦るようにおみくじを引くことに賛成した――。
「やったぁ! 大吉!」
彼は、おみくじを広げると嬉しそうに声をあげた。良かったねと言いつつ、私は自分のおみくじをポケットにしまおうとした。それに気付いた彼は、素早く私の手からおみくじを奪う。
「あはは……。大凶だった」
苦笑するしかない。
彼は、生き生きした瞳のまま、私のおみくじと自分のおみくじを棒状に折り、二つを結びつけた。
「これで、悪いのなんて飛んでくよっ。大吉で中和!」
彼は得意気に言う。
「二人の運勢、半分こな。せっかく一緒にいるんだし」
なんだか胸が熱くなった。
今、またひとつ、リアルな彼を知ったんだな。
好きな教科や、飼っているペットとか、そういう、彼の知り合いの誰もが知っていることじゃなくて、近付かないと分からない、彼の内面が見えた気がする。
メールじゃなくて、時間が合う限り、これからもいろんな彼を知りたいと思った。
「明日から、昼以外にもメールしていいかな?」
私が訊くと、彼は言った。
「いつでも、待ってる。ううん、もっとメールしたいって思ってたし!」
また、胸がトクンとした。