夏色かき氷【短編集】
不器用クッキー
隣の席のあの人の口癖は「腹へった」。部活をしているから仕方ないと思うけど、周りの友達からは「またかよ」と呆れられていた。
サッパリした顔に似合わず、本能的でワイルドな言動をする人。
あの人が私の特別になったのは、ひょんなキッカケからだった。
ある日、幼なじみの女の子の家でクッキーを作ることになった。
お菓子作りには興味があるけど、私の家にはオーブンレンジが無いからレパートリーうんぬん以前の問題だ。今の時代、オーブントースターしかない家は私んちくらいなんだろうなと思うとけっこうヘコむ。
そんな都合もあり、幼なじみの女の子がクッキーを作るために自宅に招いてくれた時はホッとしたしかなり嬉しかった。最新型のオーブンは、ケーキ屋さんに売ってそうなクッキーを何枚も焼き上げてくれた。
一度、その子の家で成功したんだからと調子に乗り、私は自分ちで同じクッキーを作ってみた。結果、オーブントースターで焼くクッキーはやっぱり微妙で、オーブンレンジのスペックには敵わないなと思いしった。同じ材料を使ってるのに。
翌日。私は、一人で作ったクッキーを空きビンに詰め学校に持っていった。捨てるのはもったいないから、おやつにしようと思って。
そしたら、隣の席のあの人が、目ざとく、
「なにそれ! 手作り!?」
と、私の手元にあるビンを見た。欲しそうな目で。
「そうだけど、美味しくないからやめといた方がい……!」
最後まで言い終わらないうちに、彼はビンに指を突っ込み、ゴテゴテした不恰好なクッキーを口にした。
まずいと言われると思ったのに、彼は目を輝かせ、
「……ん! うまい! 初めて食べる感覚だ…! どうやって作ったの?」
「ヒミツ!」
トースターで焼いたなんて、恥ずかしくて言えなかった私は、そっぽを向くしかなかった。
「なぁ、また作ってよ! これ、食べたい! 何個でもいける!」
気を使ってウソを言ってるんじゃないってことを、空になったビンが証明してくれた。
それ以来、私は彼の喜ぶ顔が見たくてクッキーを作って持っていくようになった。
彼は時々、「お返しな」と言い、学食のサンドイッチをくれた。ハムと玉子のミックスサンドは、私の大好きなものになった。
ありがとう。クッキー。