夏色かき氷【短編集】
バンドエイド
昼休みのざわついた教室での出来事。
「この前貸したCD、返してもらうな」
クラスの男子生徒が、友達のカバンから1枚のCDケースを取り出し、言った。
「なに、このバンドエイド!」
そのカバンの中には、バンドエイドの箱が3つも入っている。コンビニや薬局に売られている、何のへんてつもない普通のバンドエイド。
「ちょっとね」
カバンの持ち主である男子生徒は、短くそう答えただけだった。
めったにケガなどしない彼が、なぜ、そんなにたくさんのバンドエイドを持ち歩いているのか。
それは、彼のためではなく、彼が片想いしている相手のための物であった。
夏になると、女性陣はこぞってミュールやパンプスを履きたがる。スニーカーなんてもってのほかと言わんばかりに。
彼が想いを寄せている女の子も、例外ではなかった。彼女も、夏が来るたびに涼しげな足元を演出している。
「今年はこれで足りるかなぁ……」
学校からの帰り道、彼はカバンの中を見た。
彼女とは、毎年のように各地の花火大会やお祭りに行っているのだが、その度に彼女は靴づれをしてバンドエイドを欲しがるのである。
その度に彼は、靴づれした彼女の痛々しい足にバンドエイドを貼る役目を担(にな)わされる。
「いつもごめんね、ありがとう」
彼女はそう言いながら、照れ笑いを浮かべて彼を見ていた。
お祭りに花火大会。夏は、二人でいられる時間が多いので、それだけで充分嬉しいのだが、彼にとっては、彼女にバンドエイドを貼る瞬間もけっこう楽しみなひとときのうちのひとつだった。頼まれたわけではなかったのに、いつの間にかそんなやり取りが当たり前になっていた。そのことにも、ささやかな幸せを覚えてしまう。
今年の夏は、どんな足元で登場するんだろう?
まだ見ぬ彼女の夏の足元を想像しながら、彼はなまぬるい風を頬に感じた。
「ま、いっか。足りなくなったら、“また”補充すれば」
つぶやき、彼は夕暮れの道を歩く。
今年も、まだまだ暑くなりそうだ。