夏色かき氷【短編集】
青に癒され
目の前には、海が広がっている。
避暑地としてはマイナーなせいか、なかなかいい眺めなのに、私達以外に人はいなかった。ただのひとりも。でも、今はかえってその方が助かる。
私と彼女は、こうして肩を並べて、ただただ、夏の海をぼんやり眺めていた。数時間前から、ずっと……。
私と彼女は高校の頃からの付き合いだった。高校を卒業した後は進路が分かれ、彼女は就職、私は四年制大学に進学をしたのだけど、それでも仲が良いことには変わりなく、土曜日の夜を中心に週1~2回は二人で遊んでいた。
大学生になって間もない今年の春、私達は、彼女の仕事先の人と遊ぶことになってしまった。
仕事関係の人と遊んでも気を遣うだけだし、と、彼女をはじめ、私も最初は気が進まなかった。学生なのに、社会人ばかりの集まりに行って浮かないか不安だったし。けれど、いざ行ってみたらそんなことはなく、ほとんど気楽なサークルノリの集まりだった。
私達は未成年だからさすがにお酒は飲めなかったけど、そこへやってきた男の人達のおかげで、意外なほど楽しい時間を過ごすことができた。
出会いなんてどこにあるのか分からないもの。私達は、偶然にも、そこで彼氏なんてものを作れてしまった。
そういう目的で参加したわけじゃなかったし、恋する予定もなかったけど、そんな心境の時ほど誰かを好きになってしまうものなのかな?と、思ったりする。
彼氏が出来てから三ヶ月間、私達は二人で遊ぶことはなくなり、お互いにそれぞれの彼氏と楽しい時間を過ごしていた。たまに近況メールをやり取りするくらいで。
でも、今は、彼氏とは別れてしまった。私も、彼女も。
相手は社会人だったから、歳上だから、お互いの生活がすれ違い気味だったから。……別れた理由を探してみても、どうにもならない。ただ、分かるのは、彼氏と過ごした時間は幸せなものだったということだけ。
私達は、ただただ海を眺めながら、別れた人のことを想った。しゃべることもなく、泣くこともせずに。
もう届かない。好きな気持ちも、この胸の痛みも。
平常心が戻ってくるまで、こうして彼女のそばに居たいと思っている。
自分のことで精一杯なせいで、落ち込む彼女に対してかけるべきなぐさめの言葉や励ましのセリフなども、全然浮かばないけど。
海の青だけは、私達の痛みを包み込んでくれるような気がするから。