夏色かき氷【短編集】
ノスタルジア
彼とメールのやり取りをするのは、きっと、これが最後だ――。
明日も朝から仕事なのに、私は元カレとのメールを止められずにいた。彼とは大学一年の時に半年だけ付き合っていた。別れて7年が経っているのに、彼の連絡先は削除していなかった。
先週、私は、何年かぶりに自分のケータイのアドレスを変えた。迷惑メール対策。
よく会う友達や職場の人だけでなく、疎遠になっている友達にもアドレス変更を知らせた。お互いに忙しいせいもあり、普段は遠慮して連絡を控えてしまう相手もいるから、アドレス変更は久しぶりに関わる友達と近況を教えあういいキッカケになると思った。
仕事で疲れていて、これ以上精神的な余裕はないはずなのに、そんな時に限って、私は大学時代の元カレなんかにまで、アドレス変更報告メールを送ってしまったのである。余計に疲れそうな出来事を自ら引き寄せたのでは話にならない。自分に呆れる。
無視されると思っていたのに、元カレは一時間もしないうちにメールを返してきた。
《久しぶり!!元気にしてる?》
それから、穏やかなメールを返信しあった。
あの頃の辛い別れ話なんか無かったみたいに、私達はメールで話し込んでいた。まるで、長年の親友同士みたいに。
数日間に渡り、延々とゆるいやり取りが続くと思ってた。なのに彼は、そんな雰囲気を壊すような内容のメールを、狙ったようなタイミングで送ってきた。
《こうして普通にメールできてるの、君の優しさのおかげだと思う。あの頃も君のこと大好きだったのに、俺は素直になれなくて、傷付けてばかりだったよね。君に会いたくなってきたよ。今、すごく。ますます素敵な女の子になったね。メールで分かるよ》
私は左手薬指の指輪をそっと撫でる。
私は、今年結婚する。相手は、偶然にも元カレの男友達だ。彼らは大学時代からずっと仲が良い。当然、元カレも、私が結婚することを知っているはずだ……。
私が入籍すると知っててそんなメールをするのか、まだ知らないのかは、わからない。
《私、幸せになるね。あなたもきっと、幸せになってね。私達はダメになってしまったけど、私達が付き合った半年間は、どんなに時が流れても貴重な宝物だよ。》
そんな文章を作って削除する。婚約者に対する罪悪感ではなく、口にしたら、共有してる思い出の価値が下がる気がしたから……。