籠のなかの小鳥は
「この手蹟のほうが、好きだな」
本心からそう言う。

形を整えることに汲々としている手蹟より、よほど面白い。
言われた小鳥は、きょとんとしている。

筆に墨をふくませ、息を整えてまた紙にむかう。


そんなに一生懸命にならないでよ、邪魔したくなるから。


初心な少女とのやりとりも、思いのほか楽しいものだ。


あなたは知らないだろうな。その桃色に染まった耳朶が、どんなに甘くて柔らかいか。そうちょうど、あなたの好きな餅のようにね。
このまま抱き寄せて、そのくちびるを僕の口でふさいだら、あなたはどんな顔をするだろう。


ついついそんな想像をしてしまう。

でもね、僕は優しい男じゃないけど、博愛主義者でもあって。
僕の訪いを待っている女性がたくさんいるものだから。

それにそう、あの “生まれながらの” 宮様のことも大切だからね。四人でいるのは、嫌いじゃない。
日嗣の皇子としての運命を背負わされたもの同士だから。


だからあなたにはこうして、菓子を差し入れて、書を教えて、ときおり笛でも吹いてあげよう。

それが僕にできること。
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